Lions Data Lab

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ヤクルトさんの新兵器・ホークアイの公開データで早速遊んでみた(前編)

 たいへんご無沙汰しております、LDLです。

 

 書く書く詐欺で半年以上何も更新しなかった当ブログですが、一応記事のネタはあったものの、公開するタイミングを逸したまま終戦してしまったので来季に持ち越している状態です。結構リソースを割いて作ったものなので、できればより多くの人に見ていただきたく…。

 

 で、「他に何の検証をしてみようかな」とぼんやりと考えていた矢先、先日見事リーグ優勝・CS突破を果たした東京ヤクルトスワローズさんがホークアイのデータというデータオタク垂涎のデータを一部ながら公開してくださったので、早速それで遊んでみた結果を簡単にご報告したいと思います。

 

 

そもそもホークアイって何?

 

ソニーグループポータル | テクノロジー | Stories | ホークアイ

 

 ホークアイは、「球場に設置した8台の専用カメラでボールなどの動きをミリ単位の正確さで捉えてリアルタイムに解析し、投球の速度・回転数・回転の方向・軌跡など、さまざまな種類のデータを取得するサービス(スワローズ公式HP原文ママ)」です。上の画像はそのロゴで、なんとなく某ロボットアニメの主人公の片目を思い出すデザインで好きです。

 

 さて、この手のサービスというとトラックマンが有名ですが、トラックマンはドップラー効果を利用してレーダーで計測しているのに対して、ホークアイは多数の高性能カメラで撮影した多角的な映像をもとにデータを取得しているようです。そもそも計測の原理が異なるわけですね。

 

 詳細はスワローズ公式HPホークアイの公式HPをご覧ください。

 

 このサービスで膨大なデータが得られるわけですが、なんとその一部を先日スワローズさんが一般公開してくださいました。選手情報ページの充実を図りながら、新たな野球の楽しみ方を提供する取り組みだそうです。ありがたいや。

 

 では具体的にどんなデータが追加されたかですが、私がごちゃごちゃ書くよりも、百聞は一見にしかずということで、早速下記のリンクからアクセスしてご覧になってみてください。

 

 …というかなるべくアクセスしてください!私は知っての通りライオンズファンですし、関係者でも何でもありませんが、はっきりと宣伝します。需要があるとわかれば、スワローズさんとしても公開した甲斐があるというものですし、今後のコンテンツの拡充や、ライオンズをはじめとした他の球団への波及も期待できますからね。

www.yakult-swallows.co.jp

 

 投手はストレート、野手は打球についての詳細データが記載されているのがわかると思います。今回は投手にフォーカスして、このデータをさくっといじって遊んでみました。普段であればデータの取得も処理も自作のプログラムを使うことが多いのですが、これは各選手のページからExcelにコピペしただけなので、分析にあたりコンピュータについての専門的な知識は必要ではありませんし、収集だけなら30分もかかりません。興味がある方はご自身でトライしてみてください。レッツ・アナリシス。

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生データのまとめ(2021シーズン・投手)

 こちらが、2021年に神宮球場で登板したスワローズの投手のストレートに関する詳細データの一覧になります。すべて公式の情報をコピペでまとめたものですが、大事なことなのでもう一度言います。公式HPにアクセスして、ご自身の目で確かめてください。

 

簡単にできるデータ遊びその1

 

 さて、ただまとめるだけでは意味がないので、ここからが本題です。

 

 今回は、ホークアイのデータから、ボールの回転にまつわる二つの事柄について検証したいと思います。前編のテーマはこちら。

 

①「回転数の多いボールは球速が落ちにくい」は本当なのか

 

 よく野球を科学的に検証する記事で、「回転が多いと摩擦抵抗が減るので、初速と終速の差が小さくなる」なんて文句を見たことはないでしょうか。

 

 直感的に、回転しないボールより回転するボールの方が、触れる空気を受け流してくれそうな気がするので、読んでいて特に違和感もないかと思います。自分は工学系の大学の出身ですが、四力学では流体が最も不得手だったので、科学的に本当に正しいのかも正直よくわかりません(笑

 

 それを今回、ホークアイのデータをもとにさくっと検証してみます。すでに何の加工をせずとも、初速・終速・回転数という検証に必要な3つのパラメータが公開されているので、投手ごとに球速差を縦軸、回転数を横軸としてグラフ化するだけです。それがこちら。

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回転数と球速差(初速-終速)の関係

 一部例外はありますが、全体的に右肩上がりに見えますね。つまり、回転数の増加に伴い、初速から球速が落ちている傾向があるということです。

 

 …ん、これって定説と逆なのでは?

 

 いやいや、そうと決めるのは早計です。中学校の物理の問題で、「ただし、空気抵抗は速度に比例するとする」ってあったじゃないですか。振動力学におけるダンパの抵抗力は速度比例なのだから、空気の粘性による抵抗力もきっと速度比例だった…はず(全く自信はありません)。ゆえに、速い球の方が抵抗が大きくなるというのも直感的に頷ける話ですが、このグラフからは大元となる球速の概念が欠落してますから、そこを考慮する必要があります。実際、最も右上にいるマクガフ投手は初速151.9km/hでこの中では最速であり、最も左下にいる寺島投手の初速は140.5km/hでブービーですからね。

 

 そこで、初速が関係するかどうかを検証すべく、回転数が同程度の投手を比べてみます。例えば2200rpm弱の下記3投手。

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回転数2200rpm弱の3投手比較

 初速は近藤投手>奥川投手>小川投手ですが、球速差では奥川投手と小川投手の序列が逆転していますね。このことから、傾向こそあれど初速が速いほど球速が落ちやすい、とも言い切れないことがわかります。

 

 いよいよ、初速と回転数が球速差にどう影響を及ぼすのかわからなくなってきました。では、いっそのことそれらがともに近い投手を比べてみることにしましょう。

 

 「終速は回転数と初速から一意に求まる」と仮定し、その検証のために初速と回転数が近い投手をリストをからピックアップして確認してみます。この仮説が正しければ、各組の終速も同程度になるはずです。今回ピックアップしたのはこの2組4投手です。

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初速と回転数が近い投手

 梅野・今野両投手が初速・回転数に加えて回転軸も非常に近く良いサンプルで、次点がバンデンハーク・大西投手の組み合わせでした。球速差を見ると、一見近しい数字に見えますが、上のグラフからもわかるように球速差は最低~最大でも2km/h程度の差しかないので、0.5km/hというのは結構大きな違いになります。

 

 球速の速いバンデンハーク投手らとの明確な序列も確認できないため、現時点ではこの仮説が正しいとも言えなさそうですね。

 

 さて、だらだらと検証をしてみましたが、結局回転数と球速差の相関を見出すことはできませんでした。ただし、あくまでこのデータから読み取れることでしかありませんが、「回転が多いと摩擦抵抗が減るので、初速と終速の差が小さくなる」という傾向は全く認められなかったので、出発点となっていたこの定説はどうも信憑性が怪しそうな雰囲気ですね。もちろん、サンプル数をもっと増やせば定説を裏付ける傾向が顕在化するのかもしれませんが、そのようなデータが公開される世界を実現するためにも、データ好きの方はぜひスワローズさんの取り組みを応援していきましょう。

 

 もし空気抵抗の要素を厳密に検証するのであれば、これらの要素に加えて縫い目の向きも考慮する必要がありそうかな、と思ってます。

 

 

 短いですが前編は以上です。いかがでしたでしょうか。

 

 後編では、簡単にできるデータ遊びその2ということで、「回転数・回転軸の傾きとホップ量の関係」を、ホークアイのデータを使って検証してみたいと思います。データや図はだいたい整理できており、すぐに公開できると思いますので、ぜひとも併せてご一読ください。

 

 オフはちゃんと定期的に更新していくよう努力しますので、今後ともよろしくお願いします!