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【指標考案】wK/9も計算してみたらちょっと面白かった

どうも、LDLです。

 

2月の更新は、1月の記事での予告通り、初稿「奪三振力」をセイバーっぽくwK/9にリバイスしてみよう、という記事になります。本当はそこから一気にwK/BBやwK-BB%も算出・掲載しようかと思ったんですが、wK/9だけでそこそこの分量になったのでいったんそこで切る形としました。

 

初稿でご紹介した奪三振力は、全ての三振を平等に扱う奪三振率と異なり、対戦打者の"三振しにくさ"も考慮に入れているという点で、投手の奪三振能力を測る指標としてより本質的だ(と筆者が勝手に思っている)と述べました。

 

ただ、「相対的に誰が優れているかさえわかれば良い」という安直な考えで作ってしまったため、前回のwBB/9と異なり元の指標と次元が合っていないという問題点に気づいたので、同様のやり方でwK/9(weighted K/9)としてリバイスします。

 

それではいってみましょう。

 

 

K/9と奪三振力、wK/9の定義と違い

wK/9の話をする前に、まず基本となるK/9をおさらいしておきましょう。

 

K/9はいわゆる奪三振率というやつで、定義は「投手が9イニングで奪える平均的な三振数」になります。数式にすると下記の通りです。

 

\displaystyle{K/9= 奪三振数 \times \frac{9}{投球回数}}

 

これは読んで字のごとく投手の三振を奪う能力を簡単に算出できる(とされている)指標で、ある程度プロ野球を観てきた方であればすでにご存じかと思います。

 

この指標の優れている点は、なにより"計算が簡単かつわかりやすい"ことにあると思います。

 

例えば、下記のような投手A・Bがいたとします。

 

投手A:147イニング・130奪三振

投手B:112イニング・96奪三振

 

この4つの数字をぱっと見ただけでは、よほど算数のセンスに優れた方でない限りどちらの奪三振能力が高いかは判断できないと思いますが、上式にこの数字を代入して奪三振率、すなわちK/9を計算してあげると、Aは7.96、Bは7.63となり、Aの方がやや優れていることが一目でわかるようになりますよね。

 

これは非常に簡単な例にはなりますが、"多くの情報を集約して見通しを良くする"という指標の一つの存在意義を実感いただけたかと思います。

 

ただし、情報を集約する過程で、往々にして考慮されていない、あるいは抜け落ちてしまう情報もあります。例えば、今回取り上げるK/9においては、どんなにコンタクトの上手い粘っこい打者から奪った三振も、いわゆる扇風機と揶揄されるような三振の多い打者から奪った三振もすべて等しく1としてカウントされているため、対戦した打者の性質は考慮されていません。

 

先ほど例示したA・Bの2投手において、対戦打者まで細かく見ていったとき、Aが運良く"扇風機"との対戦が多かったというだけであった場合、本質的な奪三振能力はBの方が上だった可能性もあるわけです。一つ一つの奪三振に対して打者の性質を考慮しないK/9をそのまま「奪三振能力を示した指標」と短絡的に解釈してしまうと、対戦した打者の性質の偏りによっては実態と乖離してしまうリスクがあるというわけですね。

 

K/9はあくまでシーズンの通算成績をもとに算出した9回を投げた場合の奪三振数の期待値であって、奪三振能力とイコールではありません。この観点というか解釈は、指標というものを見るうえで非常に重要です。以前XにてGG賞についてのポストで述べたように、UZRは「守備の上手さを示す指標」とは定義されていない、ということと同じですね。

 

そして、上記の観点を"重み付け"という形でK/9に盛り込んだのが、初稿の"奪三振力"ということです。詳細についてはそちらをご覧ください。

 

さて、前置きはこれくらいにして、ようやく具体的な計算に入っていきます。初稿で定義した奪三振の算出式は下記の通りです。

 

\displaystyle{ K _ {p}= \frac{1}N \sum_{i=1}^n \frac{1}k _ {i} }

 

ここで、Nは対象の投手が対戦した打者の総数、nが対象の投手の奪三振数、k _ {i}が三振を喫した打者の三振率(シーズンの三振数/打席数)になります。

 

投手の奪三振能力を相対的に測る分にはこのままでも良いのですが、これは前述の通りwBB/9と異なりベースの指標であるK/9と次元が揃っていないため、「重み付けしたK/9」という指標になるように定義式を下記のようにいじります。

 

\displaystyle{ wK/9 = \sum_{i=1}^n \frac{1/k _ {i}}{1/\bar{k}} \times \frac{9}{投球回数}}

 

nが対象の投手の奪三振数、k _ {i}が各奪三振における打者のK%(シーズンの三振数/打席数)、\bar{k}は全打者のK%の平均値になります。

 

逆数のところを見やすく整理するとこんな感じですね。

 

\displaystyle{ wK/9 = \sum_{i=1}^n \frac{\bar{k}}{k _ {i}} \times \frac{9}{投球回数}}

 

基本的にK/9とBB/9は「9イニング換算の期待値」という構造が同じなので、wK/9も前稿のwBB/9と同様になります。K%が平均値である打者から奪った三振はそのまま1奪三振とカウントされますが、粘っこい打者からのものは1以上になり、逆も然りです。

 

こうしてやることで、K/9が単純に「9イニング換算の期待値」であるのに対して、wK/9は「平均的な数の三振をする打者だけを相手に9イニング投げた場合の奪三振数の期待値」といった具合(厳密には異なりますが、そんなイメージでとらえていただければ…。)に、投手ごとに異なる対戦打者の性質をなるべく排すことにより解像度が上がるというわけです。

 

ただ、シンプルなK/9であっても、投球回数が多くなればなるほど様々なタイプの打者と対戦することになるのでトータルで見ればwK/9も似たような数値になるかもしれませんが、さぁそこはどうなるか?次の章で見てみましょう。

 

K/9とwK/9の比較

まず、K/9とwK9に加え、その比率の一覧表を見てみましょう。

 

2023年パリーグレギュラーシーズンにおいて、100打席以上対戦のあった投手を対象とし、wK/9の降順にヒートマップを付して左から3列に並べてありあす。また、「比率」というのはwK/9をK/9で割った値で、数値が高いほど「三振しにくい打者からも三振を奪った投手、対戦相手次第でもっと三振を奪える可能性がある投手」ということになります。

 

ざっと眺めた感じ、wK/9が高ければK/9に対する比率も高く、逆も然りですね。K/9の高い投手は概ね三振しにくい打者からもしっかり三振を奪えているため、比率が高くなる傾向にあるようです。

 

K/9上位層の中で比率が低いのが、0.93のオリ本田投手、0.95のオリ山岡・ロッテ増田投手、0.96のロッテ横山投手あたりで、山岡投手以外は対戦打者が偏りがちなリリーフというのも、wBB/9と同様の傾向です。今シーズンはどうなるか、注目ですね。

 

一方wK/9の下位層で比率が高いのは、我らが平井プロと昨季飛躍したハム鈴木投手が1.12で並びトップ、続いて1.09のSB有原投手、1.07のハム加藤投手あたりですね。こちらは一転して先発が多いのはちょっと気になります。K/9が示す通りいずれも本格派というわけではないですが、しっかりとしたペース配分でここぞの場面でしつこい打者からも三振を奪う術を心得ているということなのかもしれません。

 

西武ファン目線だと、K/9は中位ながら比率は2位1.12の青山投手に期待です。昨季はクローザーも任されながら与四球の多さが課題でしたが、あのスプリット単体だけ見れば十分通用するキレを備えていると思うので、そこの精度を上げてタムイチさんのように飛躍してほしいですね。

 

球団ごとの特色

次に、完全に個人単位で集計したこのデータを球団ごとに分けてみたらどうなるか?試しにやってみたら、少し面白い傾向が見えてきたのでご紹介します。

 

まずは↓の表を眺めてみてください。何か気付くことはあるでしょうか?

 

そう、楽天投手陣の圧倒的な赤さです。

 

2023年の楽天打線は三振数合計が937とリーグで最も少ない(最も多い日ハムは1111)ので、三振を奪いにくい自軍打線と対戦していない分、対戦している他球団よりwK/9が悪化するのは一見自然に見えます。

 

ですが、打線の三振数が楽天に次いで少ないオリックス(同2位986)は赤と青が半々程度で色も薄いですし、次いで三振の少ないロッテ(同3位1011)に至っては青の方がやや目立つくらいです。自軍と対戦しないこと以外にも原因があると考えた方が自然でしょう。

 

そもそもこのwK/9という指標は、「対戦打者の三振しにくさに応じて四球の価値を重み付けしたもの」なので、正しく定義・計算できているのであれば自軍と対戦していないことも関係ないはずです。相手が三振しやすい打線なのであれば、相応の数の三振を奪えば良いだけですからね。自軍以外にも三振しにくい打者は当然たくさんいるわけで、比率が低いということはそこから三振を奪えていないというチーム全体の課題が見えてきます。その投手陣にあってリーグ屈指の奪三振能力を誇る松井投手が渡米してしまった今季、他の投手が台頭してこないとかなり苦しい戦いを強いられそうですね。

 

逆にハムなんかはすごくて、ほとんどが比率1を超えているうえに全体でもトップクラスといえる1.1超が6人もいます。ロッテも比率が良好な投手が多く、特に坂本投手なんかは素晴らしいストレートがあり、敵ながら楽しみな投手ですね。

 

西武で楽しみなのは、青山投手以外だと隅田投手今井投手奪三振数は一般的にイニング数以上になるとドクターKというイメージが強くなりますが、この2投手はK/9こそわずかに及ばないものの、wK/9になるといずれも9を超えてきます。相手のめぐり合わせ次第ではその域に達することも十分可能ということですね。

 

2投手ともすでに強力なボールを備えていますので、怪我無く相応のイニング数さえこなせれば奪三振王を狙えるポテンシャルはあると思います。今シーズンに期待が高まりますね。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

wBB/9と同様にK/9に重み付けという考えを付加してみましたが、その数値のスケールをほぼ維持しつつも上手いこと差別かもできて、新しい情報を浮かび上がらせることができたかな、と思います。

 

前述の通りwBB/9とwK/9を使ってwK/BBやwK-BB%なんかもご紹介したいなと思いますが、せっかく開幕も迫ってきていることですし、次回は昨季イマイチ当たらなかったNEXT BREAK系の記事に再チャレンジしたいと考えております。それらの指標はシーズン前半戦を終えたあたりで、今季の新鮮な情報をベースに改めて整理してお送りしますね。

 

それではまた!