Lions Data Lab

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【定量評価】緩急ってどれくらい有効なの?(後編)

どうも、LDLです。

 

データツイよりお気持ちツイに熱が入ってしまってる感じが否めないので、そろそろアカウント名から「データ」は外してシンプルにLDLにしようかな、とか考えている昨今です。なんか無駄に長いですしね。

 

ということでブログくらいはデータアカウントらしいところをお見せすべく、相変わらずギリギリですが7月の更新です。6月の「緩急ってどれくらい有効なの?(前編)」に続く後編になります。未読の方はまずこちらをご覧ください。

 

lions-datalab.hatenablog.com

 

簡単におさらいすると、前回は打席ごとに各投球の球速の標準偏差を求め指標Sと呼称し、それを一定間隔でグルーピングしたときグループごとの打率がどう変わるかを検証しました。「球速の標準偏差が大きい⇒球速がバラけている⇒緩急がきいている」と考えると、緩急が打者を打ち取るうけで有効なのであれば標準偏差にに対し右肩下がりになるはずですが、どちらかというとそれとは逆の結果になってしまいましたね。

 

さて今回は、この標準偏差を用いた緩急の評価方法の欠点と、それを補った第二の評価方法をご紹介します。

 

 

数値化方法②「球速差平均」

 

もう一つの方法は実はよりシンプルで、各投球の球速差の平均値を緩急と見なす方法です。緩急とは、前のボールに対する球速差のことと考え、その差の絶対値を積み上げていきます。

 

例として、下の表をご覧ください。先ほどの打席①と配球・球速は同じです。

2球目が151km/hで、初球が150km/hですから、球速差は1km/hになります。これを3球目と2球目、4球目と3球目というように繰り返して積み上げ、その平均値5.5が指標となります。

 

さきほどの標準偏差による指標Sは球速の組み合わせによって数値が決まるものであり、順番は考慮されていないという欠点がありました。一方この指標(以下、指標D)の場合は、各投球の球速差を積み上げていくので、順番が非常に重要になります。例として、下表をご覧ください。前編でお見せした打席①~③と同じ内容です。

 

差の平均、すなわち指標Dは、速い球が多い①に比べてスローカーブを織り交ぜた②の方が高い数値となっています。これは標準偏差を利用した指標Sと同様ですね。

 

一方、②の順序を変えただけの③において、当然組み合わせに依存する指標Sは②と同じ20.45となっていますが、速い球・遅い球をそれぞれ連続で投げているため、その間の球速差が小さくなり、指標Dも低くなります。配球というのは使う球種の組み合わせだけでなく、前後の球との関係…文脈とでも言いましょうか。それが大事だと思うので、私としては指標Sより指標Dの方が緩急の有効性を評価するうえでより本質的だと考えています。

 

では、新たな指標の概要もご説明しましたので、前編の指標Sと同様のデータ処理をして可視化していきましょう。もし、この指標がしっかり緩急というものを定量的に表現できておりかつ緩急が打者を抑えるうえで有効なのであれば、その関係はこんなグラフになるはずです。(前編のものの再掲。[0-2]は、指標Dが0から2の全打席の打率が.270だった、という見方です。)

 

さぁ、実際のデータはどうなるでしょうか?次章で見ていきましょう。

 

データ分析結果

前編と同様に、2021年および2022年のNPBレギュラーシーズン全打席*1に対して、この指標Dを求めグループ化し、打率をプロットしていきます。その結果がこちら。

 

 

うーん、これは…。

 

こちらも前編の指標Sと同様に、仮説通りとはいきませんでした。全体的に似たような数値で推移しており、これだけ見ると、指標Dが緩急という概念をしっかり定量化できている指標だとすれば、「緩急と打率に明確な相関はない」と言わざるを得なさそうです。

 

前編の指標Sと併せて俯瞰すると、2021の[22-]や2022の[20-22]のように、特徴として見えてくるのはむしろ想定と逆の傾向で、指標Dが大きい領域で高打率になっていますね。

 

さらに、異なるシーズンにもかかわらずともに[18-20]で極端に打率が下がっているのも気になるところです。

 

まぁ、これらはたった2シーズン分のデータに過ぎないのでお世辞にも信頼性が高いとはいえませんが、このような傾向が示唆してる可能性として考えられるとすれば、「緩い球のちょうどいい割合」ではないかと思います。

 

言うまでもなく、ボールを単体で見たとき速い球より遅い球の方が打たれやすいです。いくら球速差をつけてタイミングを外そうとしたところで、緩い球が来るとわかっていれば打たれる確率も上がるでしょう。

 

ゆえに、緩い球を活かすためには、球速差による物理的な目の錯覚に加えて、速い球を待たせた中で使うことでいわゆる「拍子抜け」を狙う意識の錯覚も狙う必要があります。そしてそれを狙ううえでは、緩い球をあまり多用すると逆効果になってしまいそうですよね。だから、カーブやチェンジアップが得意な投手でも、速球と同じような割合で使う投手はそうそういないわけです。緩い球というのは速い球に目を慣らせかつ意識していないところにポンと投じて初めて真価を発揮するわけですね。

 

もしかしたらこの指標D[18-20]という部分の配球を細かく分析すると、理想的な緩急の使い方の一端が見えてくるかもしれません。前述の通り今回は2シーズンのデータのみしか使っていないので偶然の可能性の方が圧倒的に高いですが、2023シーズンのデータを採りきったら同様のデータ処理をしてみて、それでも同じ傾向が出てきたら当ブログで真剣に深堀りしてみたいと思います。

 

おわりに

今回は以上になります。前後編にわたってお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

 

今回の分析でうまい具合に右肩下がりのグラフが描ければ今まで以上に声高に「松本航投手はもっとカーブを使うべきだ!」と主張していたでしょうし、正直それをデータの面でも肯定するために調べ始めたところもあるのですが、こうなってしまうと今後は少しトーンダウンしそうですね…。もちろん定性的にはいまだに有効だと信じているので、別の切り口で再検証するかもしれませんが。

 

今回の指標Sや指標Dはものすごくシンプルな計算で導出されたものなので、これが以前ご紹介したリードの指数のようにこれが緩急を正確に定量化しているとはもちろん言いません。ただ、当然のことながら緩い球というものは闇雲に織り交ぜれば効果がでるわけでもないということは見えたかなと思います。いやぁ、リード・配球って奥深い…。

 

次回のネタはまだ何も考えていませんが、今のところ今回と同じノリで、一般的にしばしば効果的とされている「対角線の攻め」の有効性について検証しようかなーと考えております。

 

ではまた。

 

*1:球速や球種等、データが1球でも欠損しているデータは除く。安打はそこが抜けやすいので、打率は全体的に低くなっていると思われる。