Lions Data Lab

選手レビューや、一風変わったデータ分析の発信を目指しています(メニューバー工事中…)

球速の出やすい球場・出にくい球場を数字で検証してみた(前編)

  こんにちは、LDLです。

 

 いよいよ待ちに待ったキャンプがスタートしましたね。

 

 無観客というのは寂しい限りですが、その分インターネット配信が拡充されたのはとてもありがたいです。シーズンオフもパリーグTVにお布施した甲斐があるというものです。コロナがなくとも南郷は遠くてなかなか行けない自分としては、来年以降も継続してほしいですね。部屋で毛布にくるまって、ダラダラと観るキャンプもええもんです。

 

 さて、前置きはこれくらいにして、今回こそはサクッと読めるよう、特に考察の余地もない検証記事をお送りしたいと思います。

 

 題材は、みんな大好き「球場の球速表示」です。

 

 

神宮のお話

f:id:Lions_Datalab:20210202223245p:plain

 

 「神宮は球速が出やすいから」

 

 ある程度長い間プロ野球を見てきたファンの方なら、一度は聞いたことがあるフレーズではないでしょうか。 

 

 球速というと、日本最速の165キロをたたき出した二刀流右腕・大谷翔平をはじめ、同世代の藤浪、育成出身の千賀や国吉と、今や160キロ超えの剛球を繰り出す日本人投手も以前ほど珍しくはなくなりつつあります。昨季の山賊打線の大不振をカバーし、西武をAクラスに導いた立役者であるリリーフ陣のうち、平良・ギャレットの二人も160キロをマークして話題になりましたね。平良は2/3時点ではやくも153キロをマークしたとあって、今季は更なる記録更新にも期待がかかります。

 

 ただ、記録保持者の大谷を除けば、2010年に当時ヤクルトに在籍していた佐藤由規が161キロを計測したときは本当に衝撃的でした。衝撃のあまり「神宮だから実際は161も出ていない」と、記録を疑問視する声も上がった記憶があります。今でもインターネットで「由規 161 神宮」と検索してみれば、当時のそのような声を多く見ることができます。

 

 確かにそういった感覚は自分の中にもありましたし、何年か前まで最速記録の話題によく登場していた五十嵐亮太石井弘寿・林昌勇が皆ヤクルトに所属していたという点も、そういった印象に拍車をかけているのだと思います。

 

 さらに、ドラフトの際に「最速152キロ」といった触れ込みで鳴り物入りでプロ入りしながら、ふたを開けてみれば140キロそこそこしか出ないといった投手が頻出したのも影響しているように思います。大学野球の聖地・神宮で計測した最高球速は、速めに表示されるからアテにならない、というわけです。

 

 神宮以外にも、「あそこは出やすい」「出にくい」といったイメージを、おぼろげながらみなさんはお持ちなのではないでしょうか。実際のところ、使用している機器をはじめとして全てを同じ条件で計測しているわけではないのだから、球場ごとの差異があってもまったく不思議ではありませんし、特段咎めるようなことでもないと思います。

 

 でも、さきほどの由規の例のように、せっかく記録を更新したのに、何の根拠もなく「そこは数字が出やすいからなぁ」と過小評価されてしまうのはもったいないですよね。素晴らしいパフォーマンスは相応の賞賛を浴びて然るべきと思います。一方で、体感としてやはり「出やすい・出にくい」というのも存在しているとも思います。

 

 そこで今回は、そのへんのあやふやなイメージを払拭すべく、2020年シーズンに記録された実際の数字をもとにして「球場ごとに球速にどの程度の差が生じるのか」を検証していきたいと思います。以降の章で分析結果を示していきますが、そちらを読む前にご自身で予め「球速が出やすい球場」「出にくい球場」をイメージして、答え合わせをしてみることをおススメします。

 

西武投手陣@パリーグ6本拠地

 まず手始めに、ここの読者がよくご存じの西武投手陣のみピックアップし、パリーグ各球団の本拠地(メットライフ、PayPayドーム、ZOZOマリン、札幌ドーム、京セラドーム大阪、楽天生命パーク)における昨季の速球*1の投球数と平均球速をデータベースから引っ張り出してみます。対象者は、昨季の投球回数が40回以上かつ全ての球場で登板のあった投手としています。40という数値に深い意味はありません。

 

 それでは早速見ていきましょう。

 

f:id:Lions_Datalab:20210212154504p:plain

 

 うーん、これだけだと数字ばかりですし、球速帯も投手ごとに異なるので、イマイチ傾向がつかめませんね。

 

 そこで、各投手の平均球速で割ってあげることで、全ての投手に対して「1以上であれば球速が出ている球場、1以下であれば出ていない球場」といった具合に同列に扱えるようにします。いわゆるスケーリングというやつで、理系用語でいう正規化とか標準化と同じような類のデータ処理ですね。その結果がこちらです。

 

f:id:Lions_Datalab:20210212154735p:plain

 

 徐々に傾向が見えてきました。さらに視覚的にとらえられるように、各球場を頂点としたレーダーチャートにしたものが、下記の図になります。

 

f:id:Lions_Datalab:20210204000431p:plain

 見通しが良くなったことで、見事に傾向が見えましたね!念のために補足しておくと、赤破線が基準の1なので、それより外にとがっている球場は球速が出ており、内側にへこんでいる球場は球速が出ていない球場となります。その見方で整理すると…

 

■出やすい球場;PayPayドーム、札幌ドーム

■出にくい球場;ZOZOマリン楽天生命パーク、京セラドーム大阪

■どちらでもない球場;メットライフ

 

と分類できそうです。

 

 対象が西武投手陣なので、ほとんどの投手がホームグラウンドであるメットライフにおいて1付近に集中するのは一見自然なことのように思えますが、仮説の域を出ないので他チームでも同様に検証していく必要がありそうです。

 

 さらに、現時点では計測機器に起因するものとも言い切れません。投手によってマウンドに得手不得手があったりするのはご存じだと思いますが、単にPayPayと札幌のマウンドが西武投手陣にマッチしていて、ZOZOや楽天生命パーク、京セラDが合っていないだけということも十分考えられます。まぁだとしたら、あの対戦成績はどうなんだという気もしますが…。

 

 なお、ギャレットや平井については、数は少ないものの先発した試合があり、その球場で数値が低くなっているので、本来であればそこも考慮する必要があります。しかし、リリーフを先発させるショートスターターなる戦術が登場した昨今において、同戦術を積極的に活用している日ハムをはじめとした他球団のリリーフの運用までは把握しきれていないため、以後の検証にて統一感をもたせるべく、今回は除外せずそのままカウントしています。

 

 余談ですが、平良が160キロを記録したのは楽天生命パークですが、そこは彼個人の平均球速を基準に評価すると、意外にも「出にくい球場」に該当するようです。PayPayドームと比較して平均球速にして2.9キロもの差があるので、ベストコンディションのときにPayPayドームでの登板があれば、記録更新も期待できそうですね。

 

とりあえずここまで

 いかがでしたでしょうか。ご自身のイメージと、実際の数値は合致していたでしょうか。

 

 冒頭で申し上げたように、今回はサクッと読了できることを目指したので、いったんここで切り上げます。文字数もなんとおよそ6割に!

 

 後編では、他5球団に対しても同様のデータ整理をしつつ、所属チームではなく投手のタイプごとに「球速が出やすい球場・出にくい球場」があるかどうかを探っていきます。データ処理自体はすでに完了していて、一部の球場で意外な事実が見えてきましたので、後編もぜひお付き合いいただけますと幸いです。

 

 また、今回は冒頭で神宮の話を引き合いに出しておきながらセについては触れないままでしたが、もし需要があればセも取り上げたいと思います。ぜひ、お気軽にご意見ご感想等お寄せください。

 

 それでは!

*1:基本的にストレートと同義ととらえていただいて問題ありませんが、ニールのようにツーシーム主体の投手はツーシームを抽出しています。