Lions Data Lab

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球速の出やすい球場・出にくい球場を数字で検証してみた(後編)

 こんにちは、LDLです。

 

 一部では練習試合も始まり、いよいよ球春の足音が聞こえてきた感じがしますね。西武も若林やブランドンといったルーキーが芽吹いてきて、わくわくしています。

 

 ちなみに私のイチオシは、Twitterでも書いている通りB班の大曲です。本日の練習試合では無失点ながら荒れていたようで時間はかかりそうですが、モノになったときは「ワシが育てた」といわんばかりに勝手にドヤりたいとか思ってます。

 

 さて今回は、前回の記事「球速の出やすい球場・出にくい球場を数字で検証してみた(前編)」の後編です。未読の方は、数分で読める内容なので、前編をご一読のうえ本稿をご覧ください。

 

 

他球団のレーダーチャート

 

 前編では、西武投手陣の球速が球場ごとにどのように変わるのかを検証し、西武投手陣はPayPayドームと札幌ドームでは球速が伸び、ZOZOマリン楽天生命パーク、京セラドームでは球速が出ない傾向があることがわかりました。

 

 まずは前編での予告通り、西武以外のパの残り5球団のチャートを一気にご紹介いたします。なお、前編未読の方のために補足しますと、このチャート上の数値は、2020年レギュラーシーズンを対象に、①パの6本拠地全てで登板があり、②40イニング以上投げた投手に対して、各球場における速球(ストレート、ツーシームのうちメインの方)の平均球速を、全球場における平均球速で割ることでスケーリングした数値です(以後、便宜的にスピードレートと呼称します。)

 

 スピードレートは、1より大きければその投手にとって球速が出やすい球場であり、1未満であれば球速が出にくい球場となります*1。チャート上の見方としては、赤の破線が基準の1なので、そこより外側に尖っていれば「球速が出やすい」、内側に凹んでいれば「球速が出にくい」となります。

 

 では早速見ていきましょう。なお、西武のものは前編をご参照ください。

 

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 いかがでしょうか。

 

 西武投手陣だけでは偶然の可能性を排除できなかった傾向が、他球団の投手陣においても同様にはっきり見えていますね。ホームグラウンドかどうかに関係なく、2020年シーズンに限れば下記の傾向があることは言い切ってもよさそうです。

 

 ■球速の出やすい球場;PayPayドーム、札幌ドーム

 ■球速の出にくい球場;ZOZOマリン楽天生命パーク、京セラドーム大阪

 ■どちらでもない球場;メットライフ

 

  少し前に西日本スポーツさんが掲載した「本当にヤフオクDでは球速が遅くなる? ソフトB岩崎の珍要望から検証してみた」という記事にあるように、以前は球速が出にくかったのが、どうやら球速表示のソースをスピードガンからトラックマンに変更したことで、球速が出やすい球場へ一変したようです。今やトラックマンはパリーグ全球場に導入されていると聞いていますが、こちらの記事にある通り「球場ごとの差はあまりみられない」というのが事実だとしたら、トラックマン表示に切り替えているのはPayPayドームと札幌ドームの2か所だけ、と考えるのが自然でしょうか。

 

 真偽は定かではないものの、スピードガンよりトラックマンの方が数字が出やすいという噂が本当だとしたら、ロッテは大谷超えの可能性を秘めた佐々木朗希の一軍登板に向けてソースを切り替えてくるかもしれませんね。来オフの検証の楽しみが増えました。

 

 球場と投手のタイプの相性

 

 次に、このチャートで示した投手の中で、各球場におけるスピードレートの上位10名と下位10名をそれぞれピックアップして、投手のタイプと球場との相性を探ってみましょう。なお、表は氏名のみで、数値は煩雑になるので割愛しています。

 

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 球場含め、チームごとに色分けしてありますが、特にホーム球場だから慣れていて球速が出やすいといったことはなさそうです。 「球速が出る=投げやすい」と考えるのは些か短絡的ではありますが、よく耳にする「マウンドはホームチームのエースに合わせて設計されている」という噂に疑問符の付く結果となりました。

 

 ただ鋭い方はぱっと見で気づいたかもしれませんが、PayPayドームとメットライフZOZOマリンにはある特殊な傾向が色濃く見て取れます。わかりますかね?ピンとこなかった方は、もう一度この3か所をよく見てみてください。

 

 そうです、利き腕です。PayPayはTOP6までが左腕で占められ、TOP10に7人がランクイン。メットライフはTOP5が左腕で、同じくTOP10に7人がランクインしています。そして、どちらの球場も下位は全員右腕です。

 

 特にPayPayドームはこの傾向が顕著で、11位以下でも、11位塩見、12位モイネロ、15位田嶋、17位中村稔弥と、実にTOP20に左腕が半分以上の11人もランクインしています。そして、それ以下はすべて右腕です。

 

 逆に、ZOZOマリンのTOP10は松井を除いた9人が右腕で、下位は7名が左腕です。さらに、ここまで露骨でないにしろ、楽天生命パークや京セラドームでもZOZOマリンに似た傾向が見られますね。

 

 ネタばらしをしたところで、さらにわかりやすく、右腕を青で、左腕を黄色で色分けし直した表がこちらです。上記でご説明した傾向がより鮮明になったかと思います。

 

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 さぁ、利き腕に応じて球速が出やすい球場と出にくい球場が存在することがわかりました。配置転換もあった松井や便利屋的な起用をされた加藤・中村稔弥等、平均球速に起用法が影響していそうな投手も含まれていますが、やはりこれだけ偏ると利き腕に原因があるのは間違いなさそうです。

 

 この傾向には個人的にとても驚きました。というのも、マウンドの硬さや傾斜といった、球場ごとに異なる球速に直接影響しそうな要素に、利き腕の左右は関係ないはずだからです。「外国人が投げやすい球場」みたいな話はよく耳にしますが、「左腕が投げやすい球場」なんて、少なくとも自分は聞いたことがないです。

 

 ではなぜこんなことが起きるかというと、これは推測ですが、これらの球場では単純にトラックマンのセンサーやスピードガンの測定点が投手に対して正対せず、左右どちらかにずれていることが原因と考えられます。表示される球速は、投手のリリースポイントとセンサーの距離や、ボールの軌道とセンサー面との角度に影響されている可能性があるわけです。トラックマンもスピードガンも、測定原理の根本がドップラー効果にあるとされていることを踏まえれば、距離はともかく角度に影響されるというのは自然な発想ではありますね。事実、ネットの検索で出てくる仙台大学さんの論文で、照射する電波とボールの進行方向の角度がつけばつくほど、計測される数値は低下することが実験で示されているようです。

 

 現時点で、球場内表示のソースがトラックマン に切り替わったことが明言されているのは私が知る限りではPayPayドームだけなので、この仮説を検証できるのはまだ先になりそうですが、世間的に「信頼性が高い」とされているトラックマンの計測値に左右の偏りがあるとしたら、それはちょっとどうなのかなと思ってしまいますね。

 

 さて、角度という観点で利き腕以外に気になるのは、腕の角度ですね。利き手では平面的な角度に差が出ますが、オーバー・サイド・アンダーといった腕の角度では高さに差が生じます。先ほどの利き手と同様、オーバー/スリークォーター・サイド・アンダーで色分けしてみましょう*2。緑がサイド、薄い赤がアンダーです。

 

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 こちらはどの球場でも上位~下位に散在しており、利き腕ほど明確な傾向は見らせませんね。強いて言うなら京セラで上位のアンダー二名がPayPayでは下位になっている点が気になった程度ですが、オーバースローの長身外国人も同じようなところにランクインしているので、有意な差とは言えないでしょう。仮に腕の角度の影響があったとしても、前述の利き腕や、個人の投げやすさの影響に比べて些少といってよいでしょう。

 

 おわりに

 

 いかがでしたでしょうか。

 

 今回の検証で、パリーグの6本拠地における球速表示には、実際に「球速の出やすい球場」「出にくい球場」は明確に存在し、さらに左右でも出やすさに違いがあることが証明されました。

 

 ただし留意していただきたいのは、今回勝手に定義したスピードレートは、その性質上必ず1以上と1以下に分かれるため、あくまで「出やすい」「出にくい」というのは相対的なものにすぎないということです。

 

 前編で触れた神宮の例になぞらえるのであれば、PayPayや札幌ドームも「出やすい球場」であることになってしまいますが、それもあくまで相対的なものです。ドップラー効果を利用するという測定の原理上、実際の球速よりスピードが上乗せされることはないはずなので、正確には「出やすい球場」などというものはなく、「その通り出る球場」と「出にくい球場」しかないのだと思います。よって、上記の球場の分類を改めて下記のように定義し直したいと思います。

 

 ■球速がほぼそのまま出る球場;PayPayドーム、札幌ドーム

 ■球速がやや出にくい球場;メットライフ

 ■球速の出にくい球場;ZOZOマリン楽天生命パーク、京セラドーム大阪

 

 ゆえに、「球速が出やすい球場」での記録を軽視するのではなく、それはそのまま捉えて、「球速の出にくい球場」で記録が更新されたときに、より大きな賛辞を贈るというスタンスで観戦すべきかな、というのが今回の結論です。検証の結果自体とはあまり関係ないですが、これが素直な感想です。

 

 前編でも書いた通り、平良は相対的に球速の出にくい楽天生命パークにおいて160キロの大台に乗せたので、今季の記録更新は大いに期待してよいものだと思います。そして、もしZOZOマリン楽天生命パーク、京セラドームで164キロを出したときは、心の中で「日本人最速は平良だ!」と、密かに、勝手に誇ろうかと思ってます。もしかしたらTwitterではつぶやいてしまうかもしれませんが、そのときは生暖かい目で見てやってください。

 

 今回は以上になります。明日使えるプロ野球のムダ知識、くらいにはなったかなと思いますので、ぜひプロ野球仲間に話してみてください。

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

*1:前編でも記述した通り、先発・中継ぎ併用の投手は先発をした球場で数値が落ちる傾向にありますが、全球団の正確な運用は把握できていないため、今回は特に選別することなく計算しています

*2:完全に私の主観による分類です。