Lions Data Lab

選手レビューや、一風変わったデータ分析の発信を目指しています(メニューバー工事中…)

3月記事「パ6球団のNEXT BREAK」の現在地

こんにちは、LDLです。

 

相変わらず月末ギリギリの更新です。本当は別の検証をしていたのですが、高熱で寝込んだり仕事が忙しかったりバスケWCがアツすぎたりとデータ分析の時間がとれず、急遽テーマを変えました。

 

内容は開幕前に書いた記事「パ6球団のNEXT BREAK」の検証になります。「この選手はいいぞ!」とご紹介しておきながら、その通り活躍した選手だけ取り上げてドヤ顔するのは違うと思っているので、シーズンも終盤に入ったこのタイミングで実際にどうなったかをご紹介していきます。

 

それではいってみましょう。

 

 

オリックス:山下 舜平大

 

【レギュラーシーズン成績】(8/31現在)

登板数 :16

勝敗  :9勝3敗

投球回 :95

被安打 :74

被打率 :.206(右.206、左.206)

本塁打:2

与四球 :30

奪三振 :101

自責点 :17

防御率 :1.61

K/BB  :3.37

WHIP   :1.06

 

【投球分布図】

言わずと知れた今季の新人王レースにおける最有力候補です。

 

OP戦でも圧倒的な成績を残し絶賛しましたが、その通りシーズンでも実力を如何なく発揮して二桁勝利も十分射程圏内に捉えています。

 

最速160km/hの速球を軸に変化球はカーブ・フォークのみと非常にシンプルな組み立ては変わらずも、それぞれの球種が決め球クラスの威力があるのがすごいですね。キレのある速球とカーブ・フォークという比較的被弾しやすいスタイルに加えてOP戦では被本塁打2本と一発癖が懸念されたものの、蓋を開けてみればシーズンでもここまで2本と全くの杞憂でした。左右の被打率に差がなく左右の弱点がないというのも、先発として安定した活躍をするうえでポイント高いですね。

 

強いて改善点を挙げるなら、半分近くがボールになっているフォーク(赤枠)でしょうか。空振りは左右ともに20%以上取れているのでキレは問題ないと思いますが、これの制球を高められればさらに手の付けられない投手になるでしょう。末恐ろしい…!

 

ソフトバンク:大津 亮介

 

【レギュラーシーズン成績】(8/31現在)

登板数 :36

勝敗等 :2勝0敗 11H  0S

投球回 :30.2

被安打 :30

被打率 :.261(右.239、左.295)

本塁打:5

与四球 :5

奪三振 :17

自責点 :10

防御率 :2.93

K/BB  :3.40

WHIP   :1.14

 

【投球分布図】

1年目から30試合以上登板し、防御率2点台に二桁Hと即戦力のドラ2としては十分及第点の活躍を見せています。WHIPが1強、K/BBは3超で指標的に合格点でしょう。

 

ただし、対左は被打率が悪く(.295)、対右は被弾が多いとどちらにも弱みがある点は気になりますね。ワンシームという特殊球を扱う、横の揺さぶりが軸となる投手なので、対左は「甘いコースをしっかり打たれているだけ」とも取れますが、対右はあえて球種を速球とスラ系に絞ったうえで被弾してしまっているのが不可解なところです。

 

奪三振率は4.99と決して高くはなく、入団時は「7色の変化球を操る」と称された技巧派の投手だけに、3月の記事でも書いた通り先発で使ってあげた方が真価を発揮できるのかなと考えずにはいられないここまでの内容でした。

 

西武:佐藤 隼輔

 

【レギュラーシーズン成績】(8/31現在)

登板数 :40

勝敗等 :1勝1敗 14H 0S

投球回 :34

被安打 :34

被打率 :.362(右.196、左.311)

本塁打:1

与四球 :15

奪三振 :27

自責点 :11

防御率 :2.91

K/BB  :1.80

WHIP   :1.44

 

【投球分布図】

 

開幕戦の好評価そのままに、層がペラッペラとはいえ1軍の左リリーバーの1番手まで見事に登りつめました。ここまで40登板以上している中で防御率3点を切っているのは及第点と言えるでしょう。

 

ただ私が期待したほどのパフォーマンスには至っておらず、ストガイのスタイルのわりに奪三振率は少々物足りないですし、ストレートも思ったほど空振りが取れていません。それこそストレートの投球数に占める空振り率は「技巧派」と紹介した大津投手以下です。イニングの半数くらい四球も与えてしまっているせいで、主要指標のK/BB、WHIPでも見劣りしてしまっていますね。

 

それでも対右はクロスファイアで押し込めており被打率2割以下と見事に抑えてますが、対左となると内を突く攻め手を欠き、変化球もスラのみと心許なく、被打率も3割オーバー。左のリリーバーはどうしても対左の能力を求められる傾向にありますし、前述の通り西武はそこがペラッペラなので、来季までに対左の攻め手を増やして飛躍したいところですね。

 

楽天:黒川 史陽

 

【レギュラーシーズン成績】(8/31時点)

22打数 2安打 2打点 0四球 1本塁打 5三振 0盗塁

打率:.091 長打率:.227 出塁率:.087 OPS:.314

 

【打撃内容】(ファーム)

4月頭にHRを放つなど幸先の良いスタートを切ったものの、1軍定着とはならず。

 

元々逆方向に打つのが上手いのはお伝えしておりましたが、ファームではしっかり引っ張って強い打球も打てており、打球方向のバランスは良好。どの球種にもコンタクトできてますし、ヒットも打てているのでここまで3割超えも納得の内容ですね。

 

唯一の懸念点は左投手の速球や内角を打てていないことですが、本当にそれくらいで、少なくとも打撃に関してはもうファームレベルでやることはほとんどないはず。主戦場の二塁は、1軍ではまだまだ浅村選手が君臨しているためなかなか出番が来ませんが、他球団ながら我慢して使ってあげてほしい選手の筆頭です。

 

腐ることなく虎視眈々と研鑽を積んでほしいですね。

 

ロッテ:小沼 健太

 

【レギュラーシーズン成績】(8/31現在)

登板数 :4

勝敗等 :0勝0敗

投球回 :7

被安打 :9

被打率 :.310(右.267、左.357)

本塁打:1

与四球 :3

奪三振 :4

自責点 :7

防御率 :9.00

K/BB  :1.33

WHIP   :1.71

 

【投球分布図】(ファーム)

他の選手と比べるとやや穴馬のような感じで思い切って取り上げた小沼投手ですが、ここまでは1軍登板わずか4試合にとどまり、途中でトレードで放出されてしまう等苦戦が続いています。

 

最大のストロングポイントであるフォークは対左でしっかり決め球として機能していますが、対右では被打率が高く、ボールもともに40%超と今一つ。

 

また、3月の記事でも改善点とご紹介したストレートがあまり改善されず、打球方向からもわかる通り気持ちよく引っ張られてしまっているのが苦しいですね。それもファームレベルで。

 

ストレートとフォーク中心のザ・本格派スタイルは、どちらもハイレベルなボールになって初めて相乗効果を発揮して成り立ちます。今後もこのスタイルを貫くのであれば、やはりストレートのレベルアップが急務ですね。

 

日本ハム:金村 尚真

 

【レギュラーシーズン成績】(8/31現在)

登板数 :3

勝敗等 :1勝1敗

投球回 :18.1

被安打 :15

被打率 :.214(右.147、左.278)

本塁打:0

与四球 :3

奪三振 :20

自責点 :5

防御率 :2.45

K/BB  :6.67

WHIP   :0.98

 

【投球分布図】

オリ山下投手と並んで新人王候補の双璧だと思っていたのですが、残念ながらたった3試合であえなく脱落してしまいました。

 

それでも実力の片鱗は十分見せてくれており、ストレートやスラはムダなボールが少なく空振りも取れるキレがあり、フォークもオリ山下投手同様ややボールこそ多いものの決め球として機能しています。即戦力に相応しい総合力の高さを示してくれました。特にスライダーは素晴らしいですね。

 

対左の被打率がやや悪いですが、これだけどの球種でも空振りを取れているので十分改善は可能でしょう。とはいえ無事是名馬、試合で投げられないことには何の意味もないので、来年はしっかり1年通して1軍で投げられる体を作ってきてほしいですね。

 

おわりに

 

いかがでしたでしょうか。

 

本当なら全員が好結果を残してドヤりたかったのですが、所詮は素人の目なので、なかなか上手くいかないものですね。ましてOP戦の少ない戦績と映像だけでは限界がありました…。

 

ただ他球団の選手について、データは西武と同様に全て取っているもののこうしてじっくり眺める機会もなかなかなかったので、書いていて楽しい記事でもありました。もっとデータのビジュアルも拡充したうえで、来季もやってみたいと思いますので、その際はぜひご一読くださいませ。

 

それではまた。

【定量評価】緩急ってどれくらい有効なの?(後編)

どうも、LDLです。

 

データツイよりお気持ちツイに熱が入ってしまってる感じが否めないので、そろそろアカウント名から「データ」は外してシンプルにLDLにしようかな、とか考えている昨今です。なんか無駄に長いですしね。

 

ということでブログくらいはデータアカウントらしいところをお見せすべく、相変わらずギリギリですが7月の更新です。6月の「緩急ってどれくらい有効なの?(前編)」に続く後編になります。未読の方はまずこちらをご覧ください。

 

lions-datalab.hatenablog.com

 

簡単におさらいすると、前回は打席ごとに各投球の球速の標準偏差を求め指標Sと呼称し、それを一定間隔でグルーピングしたときグループごとの打率がどう変わるかを検証しました。「球速の標準偏差が大きい⇒球速がバラけている⇒緩急がきいている」と考えると、緩急が打者を打ち取るうけで有効なのであれば標準偏差にに対し右肩下がりになるはずですが、どちらかというとそれとは逆の結果になってしまいましたね。

 

さて今回は、この標準偏差を用いた緩急の評価方法の欠点と、それを補った第二の評価方法をご紹介します。

 

 

数値化方法②「球速差平均」

 

もう一つの方法は実はよりシンプルで、各投球の球速差の平均値を緩急と見なす方法です。緩急とは、前のボールに対する球速差のことと考え、その差の絶対値を積み上げていきます。

 

例として、下の表をご覧ください。先ほどの打席①と配球・球速は同じです。

2球目が151km/hで、初球が150km/hですから、球速差は1km/hになります。これを3球目と2球目、4球目と3球目というように繰り返して積み上げ、その平均値5.5が指標となります。

 

さきほどの標準偏差による指標Sは球速の組み合わせによって数値が決まるものであり、順番は考慮されていないという欠点がありました。一方この指標(以下、指標D)の場合は、各投球の球速差を積み上げていくので、順番が非常に重要になります。例として、下表をご覧ください。前編でお見せした打席①~③と同じ内容です。

 

差の平均、すなわち指標Dは、速い球が多い①に比べてスローカーブを織り交ぜた②の方が高い数値となっています。これは標準偏差を利用した指標Sと同様ですね。

 

一方、②の順序を変えただけの③において、当然組み合わせに依存する指標Sは②と同じ20.45となっていますが、速い球・遅い球をそれぞれ連続で投げているため、その間の球速差が小さくなり、指標Dも低くなります。配球というのは使う球種の組み合わせだけでなく、前後の球との関係…文脈とでも言いましょうか。それが大事だと思うので、私としては指標Sより指標Dの方が緩急の有効性を評価するうえでより本質的だと考えています。

 

では、新たな指標の概要もご説明しましたので、前編の指標Sと同様のデータ処理をして可視化していきましょう。もし、この指標がしっかり緩急というものを定量的に表現できておりかつ緩急が打者を抑えるうえで有効なのであれば、その関係はこんなグラフになるはずです。(前編のものの再掲。[0-2]は、指標Dが0から2の全打席の打率が.270だった、という見方です。)

 

さぁ、実際のデータはどうなるでしょうか?次章で見ていきましょう。

 

データ分析結果

前編と同様に、2021年および2022年のNPBレギュラーシーズン全打席*1に対して、この指標Dを求めグループ化し、打率をプロットしていきます。その結果がこちら。

 

 

うーん、これは…。

 

こちらも前編の指標Sと同様に、仮説通りとはいきませんでした。全体的に似たような数値で推移しており、これだけ見ると、指標Dが緩急という概念をしっかり定量化できている指標だとすれば、「緩急と打率に明確な相関はない」と言わざるを得なさそうです。

 

前編の指標Sと併せて俯瞰すると、2021の[22-]や2022の[20-22]のように、特徴として見えてくるのはむしろ想定と逆の傾向で、指標Dが大きい領域で高打率になっていますね。

 

さらに、異なるシーズンにもかかわらずともに[18-20]で極端に打率が下がっているのも気になるところです。

 

まぁ、これらはたった2シーズン分のデータに過ぎないのでお世辞にも信頼性が高いとはいえませんが、このような傾向が示唆してる可能性として考えられるとすれば、「緩い球のちょうどいい割合」ではないかと思います。

 

言うまでもなく、ボールを単体で見たとき速い球より遅い球の方が打たれやすいです。いくら球速差をつけてタイミングを外そうとしたところで、緩い球が来るとわかっていれば打たれる確率も上がるでしょう。

 

ゆえに、緩い球を活かすためには、球速差による物理的な目の錯覚に加えて、速い球を待たせた中で使うことでいわゆる「拍子抜け」を狙う意識の錯覚も狙う必要があります。そしてそれを狙ううえでは、緩い球をあまり多用すると逆効果になってしまいそうですよね。だから、カーブやチェンジアップが得意な投手でも、速球と同じような割合で使う投手はそうそういないわけです。緩い球というのは速い球に目を慣らせかつ意識していないところにポンと投じて初めて真価を発揮するわけですね。

 

もしかしたらこの指標D[18-20]という部分の配球を細かく分析すると、理想的な緩急の使い方の一端が見えてくるかもしれません。前述の通り今回は2シーズンのデータのみしか使っていないので偶然の可能性の方が圧倒的に高いですが、2023シーズンのデータを採りきったら同様のデータ処理をしてみて、それでも同じ傾向が出てきたら当ブログで真剣に深堀りしてみたいと思います。

 

おわりに

今回は以上になります。前後編にわたってお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

 

今回の分析でうまい具合に右肩下がりのグラフが描ければ今まで以上に声高に「松本航投手はもっとカーブを使うべきだ!」と主張していたでしょうし、正直それをデータの面でも肯定するために調べ始めたところもあるのですが、こうなってしまうと今後は少しトーンダウンしそうですね…。もちろん定性的にはいまだに有効だと信じているので、別の切り口で再検証するかもしれませんが。

 

今回の指標Sや指標Dはものすごくシンプルな計算で導出されたものなので、これが以前ご紹介したリードの指数のようにこれが緩急を正確に定量化しているとはもちろん言いません。ただ、当然のことながら緩い球というものは闇雲に織り交ぜれば効果がでるわけでもないということは見えたかなと思います。いやぁ、リード・配球って奥深い…。

 

次回のネタはまだ何も考えていませんが、今のところ今回と同じノリで、一般的にしばしば効果的とされている「対角線の攻め」の有効性について検証しようかなーと考えております。

 

ではまた。

 

*1:球速や球種等、データが1球でも欠損しているデータは除く。安打はそこが抜けやすいので、打率は全体的に低くなっていると思われる。

【定量評価】緩急ってどれくらい有効なの?(前編)

どうも、今年の目標の一つとして「毎月ブログ更新」を掲げながら、毎度更新がギリギリのLDLです。

 

長いことやるやる詐欺をし続けてきた緩急ネタを、今回ようやく書きたいと思います。

 

 

はじめに

 

さっそくですがみなさん、「緩急のきいたピッチング」と問われたら、どのような投球あるいは投手を思い浮かべるでしょうか?

 

古くはスローカーブを武器に活躍した阪急の星野伸之投手や中日の今中慎二投手。

 

ちょっと前だと変則気味の招き猫投法で活躍したロッテの成瀬善久投手やアンダースロー渡辺俊介投手。

 

多投はしないものの超スローボールで観客を沸かせた日ハムの多田野数人投手にバリバリ現役の伊藤大海投手。

 

西武OBだと、2008年日本シリーズで当時下火だったカーブを武器に巨人打線をきりきり舞いにした岸孝之投手、パームボールが代名詞の帆足和幸投手や「フォームの緩急」でも幻惑した牧田和久投手あたりでしょうか(だ、誰も残ってない…!?)

 

現役だと、西武が散々カモにされてきたオリ宮城大弥投手なんかは抜群に上手いなぁと感心していつも観てますね。

 

これまで挙げたように、緩いボールを武器に様々なタイプの投手が球史に名を残してきており、緩急の有効性に対して異論を唱える方はあまりいないと思います。バッティングはタイミングを合わせてナンボですから、例え野球未経験の方でも直感的に納得がいきますよね。

 

ただ、そういった定説をデータを使って深堀りするのが当ブログ。

 

今回も、いつも通りwebで得られる試合データをいじくりまわし、誰でも理解できる簡単な方法で緩急を数値化して有効性を検証していきたいと思います。データ処理の方法は2種類ありますが、前編ではそのうち一つめをご紹介していきますね。

 

それではいってみましょう。

 

数値化方法①「標準偏差

 

一つめは、広角打法の記事でも使った標準偏差を利用する方法です。

 

標準偏差とは集合の「ばらつき」を数値化した指標です。計算方法もシンプルで、「集合の平均値と各要素との差(=偏差)の二乗を合算し、要素の個数で割ったもの(=分散)の平方根」です。義務教育でも習う、ばらつきを定量的に示すには最もポピュラーな指標ですね。

 

「何言ってるかわからん!」って方もいらっしゃるかもしれませんが、以下に例を示しますのでご安心を。

 

上の表のような配球になった場合、5球の球速を表に記載した式に従って平均⇒分散と計算していくと、標準偏差は5.3になるので、これが方法①における緩急を表す指標になります。以後は緩急指標Sと呼称します。

 

では、いわゆる緩急の効いた配球とそうでない配球でどの程度差が出るのか、別の計算例と比較して見てみましょう。

 

打席①はさきほどと同じで、速い球のみの配球ですが、打席②はスローカーブを織り交ぜた緩急のある配球となっています。数値を見ると、①が5.32で②が20.45と4倍近くにまで増加しているのがわかりますね。ただ緩い球が多ければ良いというわけでもなく、打席③のように速い球が全くないと数字も上がりません。「緩急」の文字通り、速い球と遅い球をバランスよく使うことで大きな数値となる指標になっています。

 

今回検証する仮説は、「緩急が効くほど打者は打ちにくい」ことなので、これが正しいのであれば指標の数値が大きくなるほど、安打になりにくいはずです。それを視覚的に検証すべく、指標を横軸にとって一定値間隔で区切り、その区間の打率を縦軸にとってプロットしてグラフとして可視化します。例えば、(ありえないですが簡単のため)シーズンが10打席で、その結果と指標Sが下表のようになった場合…

 

グラフは下記のようになります。

 

実際のデータに対して同様のデータ処理をした場合、もしこの仮説が正しければ、下図のようにグラフは右肩下がりになるはずですね。

 

 

データ分析結果


さぁ、ようやくここからが本番です。

 

本稿ではプロ野球の2021年・2022年レギュラーシーズンの全打席(※球数が少なすぎると標準偏差の信頼性が低下するため、5球以上の打席が対象。かつ打席やデータソースにて球種や速度が一つでも欠落している打席は除外。後者は結構多い。)を対象として、このようなデータ処理をしてあげます。例によって手計算だと途方もない労力を要するので、私が個人で構築しているデータベースをソースとしてコンピュータの力を借りて計算しました。

 

その結果がこちら。

 

2021年は途中までは上手い具合に仮説通り右肩下がりとなっていますが、指標14あたりを境に打率が爆上がりしています。

 

2022年に至っては指標14以降が高いというのは同様で、両年ともほんのりですが二次関数のような形になってますね。

 

特に14以降が最大値に近い、すなわち球速のばらつきが大きい≒緩急が効いている打席ほど被打率が高い傾向になりました。正直、仮説を裏付けるデータになると半ば確信していたので、出力したときはかなり驚きましたね。

 

まぁこれは所詮2年分のデータでしかなく脚注の通りデータ欠損も多いので、2020年以前にも同様のデータ処理をするとまた違った結果になるのかもしれませんが、なかなか興味深い傾向ではあります。ぱっと見ではなぜこうなったのか、原因が思いつきませんね…。

 

なお、打率が全体的に低い傾向にありますが、これも脚注に示した通り除外しているデータによるものと思われます。ソースの性質上、ヒットのときは球速が抜ける傾向が多い気がするので…。(ここは細かい検証はしていませんので、おいおい)

 

そこはご了承くださいませ。

 

まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

 

今回は毎度おなじみ標準偏差を使って、プロ野球で有効とされている「緩急」という概念の数値化を試み、打率との相関を探りました。

 

結果、予想と異なる傾向が見えて私個人としてはなかなかに興味深い情報を得られたので、労力はかかりましたが満足しています。

 

一方で、実はこの標準偏差を使った方法①にはある欠点があります。後編では、そこを加味した方法②をご紹介しつつ、同様のデータ処理をしてどのような傾向が見えてくるのか探っていきたいと思います。

 

こちら、データ処理はほぼほぼ完了しており、次回こそは余裕をもった時期にお送りできればと思っておりますので、ご一読いただけますと幸いでございます。

 

それではまた!

【ゲームレビュー】2023.5.31_vs阪神

 こんばんは、LDLです。

 

 前回の記事の次回予告で緩急ネタの記事を書くと宣言しましたが、残念ながらまだデータ分析の途中です。ただ今年の目標として自身に課した「月1更新」を遵守すべく、苦し紛れで今晩のゲームレビューをお送りします。

 

 Twitterは良くも悪くも文字制限があって言葉足らずになる部分もあるのですが、ここにそんなものはないので登板した投手・打席に立った野手全員のデータをコメント付きで掲載したいと思います。贔屓の選手だけでも良いので是非読んでいってください!

 

 また、試合の詳細スコアは、みんな大好きスポナビさんからご覧ください。

 

baseball.yahoo.co.jp

 

 それではいきましょう。

 

 

投手陣

 

本田 圭佑

 先発陣が次々と離脱するなか「困ったら本田」とばかりに白羽の矢が立ち、4回無失点と白星はつかずも見事役割を全うしました。

 速球のスピードは平均140ちょい程度とやはりリリーフ時より勢いが落ちてしまい、そのせいか低めをとってもらえない四球もありましたが、そこは多彩な球種と緩急でカバー。圧倒的なボールはなくとも、引き出しが多ければなんとか形にすることはできます。チェンジアップの抜けの良さはさすがでしたね。

 

森脇 亮介

 ポンポンと二死を奪うも、連続四球で一点ピンチに。最後は決め球フォークで切り抜けました。ただ、見ての通り1つは紙一重ですし、フォームに躍動感がありボールの勢いやキレも全く問題なかったと思います。この調子で!

 

ティノコ

 1安打浴びるも無失点ピッチでホールドを記録。球数は少ないながら、対右は内外に逃げる球を投げ分けていて見事でしたね。被打率が3割近くと苦労している左からも空振りは取れたので、今日の投球がヒントになれば良いですね。

 

平井 克典

 長打でピンチを招くも無失点リリーフでこちらもホールド。長打はコースに決まってましたし、相手を褒めるべきでしょう。2本目の安打も紙一重の内野安打で、そんなに心配する内容ではなかったと思います。

 これで防御率はついに0点台に突入。FAイヤーなのでちょっと複雑なところもありますが、このままの成績を維持して残るにしても移るにしても好待遇をゲットしてほしいですね。

 

佐藤 隼輔

 制球が定まらず先頭をあっさり歩かせるも、その後はストガイピッチで見事押し切りました。ただ今はこれでよいのですが、このスタイルだと疲れてきたときやストレートが走らないときにどうにもならなくなってしまいます。

 ミエセスさんに追い込んでからインローの良いとこに決まったスラを簡単に見逃されてしまっていたのもちょっと気になるので、今のうちに色々試してストレート以外の引き出しを増やしておいてほしいですね。

 

増田 達至

 安定の4凡で見事試合を〆ました。これで5試合連続無失点と、スロースターターの守護神がいつも通り夏に向けて調子を上げてきました。

 今日はカーブがいいアクセントになっていて、打者も少し戸惑ったように見えましたね。例え見せ球でも、カーブがあると軸となるストレートもより活きるはずです。

 

野手陣

 

源田 壮亮

 見事先頭で出塁し、先制のホームも踏んで1番起用に応えました。相手先発の西さんは追い込まれたら終わり、というタイプではなく早仕掛けをする必要性は低いと思うので、P/PA(1打席あたりの球数)はもう少し欲しかったところ。

 守っては、アウトにこそできませんでしたが7回の近本さんの脚との勝負は見応えがありましたね。


川越 誠司

 先制点を呼び込む犠打に2四球と地味ながら見事な仕事っぷりでした。四球を選べる選手は今の打線では貴重なので、体調に問題がなければ平沼さんと同様に今後も起用してほしい選手です。


外崎 修汰

 第三打席まではブレーキになってしまっていたものの、最終打席でダメ押しタイムリーを放ち見事お立ち台へ。

 見ての通り甘い球もそんなに来ていなかったので難しかったと思いますが、最後に真ん中をしっかり仕留めてくれるのはさすがですね。


渡部 健人

 アウトローに食らいつき、当たりは良くないものの見事先制点を叩き出して4番の重責を果たしました。

 昇格前の私の見立てでは、「左は打てても右は…」という評価だったので今日が本当の試金石だと思っていましたが、見ての通りすらフォーク系に扇風機ということはなく、良い意味で予想を裏切ってくれましたね。実はP/PAもこの試合ではチーム最多の5.25を記録。おみそれしました。

 一発を期待されているのは間違いないと思いますが、色気を出すとあっという間に打撃を崩すと思うので、個人的にはまずはこういった打撃を継続して自信をつけていってほしいです。

 あと、取ってつけたようですが守備でも難しいショーバンをしっかり捌けていて◎


マキノン

 おなじみ一日一善のマキノンさん。おなじみすぎて特に書くこともないのですが、欲を言えばもう少し球数を投げさせたいのと、余裕がある送球はノーバンでお願いします(笑

 

栗山 巧

 なんといっても第二打席の中押しHR!

 直前に大飛球のファウルがあり、そこからの打ち直しだったのでかっこよさもひとしおでした。観てない方は、ぜひHRだけでなく1打席を通してご覧になってください。

 

鈴木 将平

 1安打放つもラッキーなものなので、ダメ押しのきっかけにこそなりましたが打撃の内容的にはあまり見せ場を作れず。同じ左打ち外野手の川越さんがしっかり仕事をしたので、危機感を持って頑張ってほしいものです。

 

古賀 悠斗

 打撃は相変わらず低空飛行が続いていますが、ダメ押しきっかけになるバントはしっかり決めてくれました。

 それに、ブルペンデーに近いこの試合で6人の投手を無失点リレーに導いただけでも十分で、打撃の準備に割けるリソースなんてなかったと思います。お疲れさまでした。

 

若林 楽人

 最近好調を維持している若林さんは今日もマルチヒットを記録。

例にもれず仕掛けが早くP/PAが少ないですが、1番ではなく9番での起用ですし浮いたボールや狙った球であれば積極的に振りにいって良いと思います。この調子で!

 

おわりに

 

 いかがでしたでしょうか。

 

 苦し紛れで書いた記事ですが、もし反応が良ければ今後も書いてみたいですね。特に今晩のような、一人のヒーローではなく多くの選手がそれぞれの仕事を果たしたナイスゲームの後はTwitterの文字制限が息苦しくもなるので、ブログの筆も走ると思います。

 

 次回は、前回予告した緩急ネタです。必ず6月中にアップしますので、ぜひご一読くださいませ。

 

 それではまた!

広角打法って何がいいの?(後編)

こんにちは、LDLです。

 

4月の更新では、2月に続いて「広角打法」をテーマにして簡単なデータ分析をしてみます。

 

前編では、諸説ある広角打法の定義を

 

①逆方向に強い打球を打てること

②コースに逆らわず打てること

③あらゆる方向に万遍なく打てること

 

の3パターンに大別し、Hard%等の一般人が無料でwebから取得てきないデータが必要な①は除外し、②について打率との相関を検証しました。

 

後編では、②にもう少し踏み込みつつ、③について検証していきます。最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 

それではいってみましょう。

 

 

②において、凡打も含めるとどうなる?

 

②について、前編では安打のみを対象として打率との相関を検証しましたが、残念ながらこれといった相関は認められませんでした。では、凡打を含めるとどうでしょうか?

 

というのも、安打の打球方向はあくまで結果であって、意識とは必ずしも一致していません。右打者が思い切り引っ張ったようなマン振りをしているのに、打球は逆のライト前、なんて光景は普通に見られますよね。

 

もし打ったのが外角の球であれば、前編の分析におけるSH指数は「コースに逆らわない打撃」として高くなるのですが、それは結果的に「そうなった」だけであり、「しよう」とはしていません。

 

私はエスパーではないので打者の意識まではわかりませんが、あくまで主題である打球方向にのみフォーカスするのであれば、凡打も含めて母数を増やしてやることでより「打ち分ける」技術や意識に則したものが見えてきそうです。

 

具体的な分析方法は以下の通りです。

 

前編と異なり、コースに応じた打撃における打率といった、スコアの重み付けの根拠になりそうなものが思い浮かばないので、シンプルにコースに応じた打撃を+1、逆を-1、それ以外を0として、フィールドかスタンドに飛んだファウルを除く全ての打球を対象に積算し、その平均値を指標として採用します。※

 

例えば、右打者が4打席立って、下記のような結果であれば…

 

1.外角(打者から見て右)の球を右飛 ⇒+1

2.内角の球をライト前ヒット     ⇒-1

3.真ん中の球を一ゴロ        ⇒  0

4.内角の球を遊飛          ⇒+1

 

計4打席で合計値が+1なので、指標(以下ではSH指数aと呼称)は1/4=0.25となります。ヒットでもマイナスになったり、内野フライでもプラスになるのが前編で設定したSH指数と大きく異なる点です。

 

さて、このような計算を、前編と同様に2022年レギュラーシーズンで規定打席に到達した全ての打者を対象に行い、散布図にプロットしてみます。それがこちら。

なんとなーくですが、正の相関がありそうな雰囲気を感じますね四隅の特異点的な選手を除けば、結構それっぽさがあります。このグラフはExcelで描画しているのですが、その機能で自動的に追加した近似直線も正の相関がありそうなことを示していますね。

 

ちなみにこの特異点的な選手は、打率からしてだいたい察しはつくと思いますが、右上が首位打者に輝いた日本ハム松本剛選手で、左上は先日のWBCでも大活躍したボストンの吉田正尚選手です。

 

続いて右下は楽天西川遥輝選手で、左下は元西武のオグレディ選手です。ともに逆方向にも打球が飛んではいるのですが、その打率が.120、.071と振るわず。トータルでハイアベレージを残した松本選手と吉田選手はそれぞれ逆方向にも.364、.259と打てているので、その差異は興味深いです。

 

③:均等に打ち分けると打率は上がるのか?

 

最後に取り扱うのはこちらのテーマ。

 

一般的なデータサイトやweb記事では、打球や安打の方向を大まかに左・中・右の3方向に分けてその比率を掲載しており、それが均等であるほど「広角に打てている」と評しています。ここでは、それが打率とどのような関係があるかを調べていきます。

 

では何をもって均等とするかというと、わかりやすさを重視する当ブログでは、数学で習う標準偏差を使います。標準偏差とは「バラバラ具合」を数値化したもので、対象となるグループの性質がバラけているほど、数値は大きくなります。逆に、均整が取れていれば数値は小さくなります。義務教育で習う概念ですが、忘れてしまった方は、良い機会なのでこちらで復習してみてください。

今回は、左(三遊左)・中(投捕中)・右(一二右)に飛んだ打球の比率の標準偏差をそのまま指数(以下SH指数b)として計算し、打率と絡めてグラフにプロットすることで相関を見ていきます。SH指数bの定義は下記の通りです。

 

\displaystyle{SH_ {b}}= \sqrt{\frac{1}3 \sum_{i=1}^3 (x_{i} - 0.33)^2}

 

例えば、右打者で打球方向が左50%、中30、右20%だとしたらSH指数bは0.125となります。全て均等に33%ずつですと、0になります。繰り返しになりますが、数値が低いほど均整がとれている、この定義で言うところの「広角打法」を実践できた打者ということになります。本当は逆数にしたかったのですが、オール33%の打者が実在した場合、分母が0になり値が無限になってしまうので、やめました。標準偏差ExcelのSTDEV関数でも一瞬で計算できますので、お試しください。

 

それでは早速グラフにプロットしてみましょう。

 

これまでと同様に、2022年のレギュラーシーズンにおいて規定打席に到達した打者を対象として、横軸をSH指数b、縦軸を打率としてグラフ化してやります。もし「打球方向が均等に近ければ打率が上がる傾向がある」ことが正しいとすれば、右肩下がりになるはずです。

 

結果はこちら。

 

本当にうっすらですが、近似直線の傾きが示すように右肩下がりになってはいますね。ただこれだと傾向と言い切るには弱いので、試しに対象を安打のみに絞ってもう一度出力してみます。

 

その結果がこちら。

 

 

全打球を対象としたものよりも、かなり明確な傾向が表れましたね!当たり前のように聞こえるかもしれませんが、安打の方向は偏るよりも、均等に分散している方が打率が高くなりやすいと言ってもよいと思います。

 

その原因として考えられるとすれば、やはりシフトでしょうか。

 

前述の通り、打球方向が偏る打者は、その方向に野手を寄せられることでヒットゾーンが狭まり、打球が抜ける確率はどうしても下がります。それが、均等な方向に安打を放てると認められれば、シフトはかえってヒットゾーンを広げるだけの愚策になりますので、守備側もシフトを敷くことはありませんからね。

 

まとめ

 

前後編にわたりお送りしましたが、いかがでしたでしょうか。

 

このデータ分析を始める前は、個人的には②の仮説を有力視していて、実際にコースに応じた打撃は安打になりやすいことも示せたことは満足しています。ただ、やはり打撃というのはそんなに単純なものではなく、安打になるかどうかは打球の速さはもちろん、高さや球種といったパラメータも影響してくるので、明確な相関と言うには数歩及ばず。一筋縄ではいきませんでしたね。でもそこが野球の奥深さであり、面白いのです。

 

それに、もしコースに応じた打撃に忠実すぎる打者がいたら、守る側としてはバッテリーがしっかりコースを突きさえすれば打球方向を制御できることになるので、かえって守りやすいですよね。だから、ときにセオリーに反する打撃をも可能にする打者こそが、ハイアベレージを残せるのかもしれません。

 

また、③についてはこれはこれで個人的に納得感がありますね。今回使用したデータの中にシフトの細かいデータは入っていないので仮説の域は出ませんが、広角に安打を放てるということはシフトを敷かれにくいため、それだけでアドバンテージになるということだと解釈しています。

 

以上を踏まえると、②と③のどちらかといえば③の定義の方がしっくりくる印象となりました。安打の方向が均等な打者は、例えアベレージが低くても伸びてくる可能性がありそうなので、今後ファーム等でチェックしていきたいと思います。

 

公開データがなく①の分析が置き去りになってしまったのが心残りですが、そこはいつかヤクルトさんのホークアイのようにNPBやどこかの球団がやってくれるのを楽しみにして、今回はおしまいにしたいと思います。

 

 

 

さて次回のテーマは、私がTwitterで常々主張していて、辻前監督も解説で仰っていた「松本航投手はカーブをもっと使うべき」が論理的に正しいのか検証すべく、「緩急の有効性の定量的な評価」を予定しています。

 

まだ何もデータ分析に手を付けていないので、結果如何では翻意するかもしれませんが、お楽しみに。

【独断と偏見とデータで選ぶ】パ6球団のNEXT BREAK

こんにちは、LDLです。

 

オープン戦は大きなトラブルもなく無事に終わり、いよいよ待ちに待った開幕も目前ですね。

 

普段はお堅めの研究・分析系の記事をメインコンテンツに据えている当ブログですが、開幕前くらい浮ついた気分でこういうエンタメ系?の記事もアリかなということで、こんなテーマを選んでみました。書きかけの「広角打法って何ぞや・後編」はいったんお休みで、勢いで筆をとった次第です。

 

オープン戦の内容や昨季の成績に加えて、プレー映像もこの目で見て加味した、今季ブレイクが期待される若手選手をピックアップしてご紹介したいと思います。当ブログは言うまでもなくライオンズ贔屓ではありますが、今回はパ6球団すべてを対象とした記事なので、昨季の順位に沿ってご紹介していきます。

 

タイトル通り独断と偏見(と少しのデータ)を基準に選んでいるので、「自分ならこの選手がイチオシ!」とかいうのがあればぜひコメント欄やTwitterのリプライで教えてくださいね。

 

それではいってみましょう。

 

 

オリックス:山下 舜平大

 

まずはなんといってもこの人でしょう。

MLB挑戦も秒読みと目される大エース・山本由伸投手の後釜の最有力候補である山下舜平大投手です。1軍実績はほぼないにもかかわらず、WBC空けで実績十分の山本投手や宮城投手に代わり今季の開幕投手当確とも噂されている、期待の若手です。

youtu.be

百聞は一見にしかず。もはや動画だけで十分凄さは伝わると思いますが、一応データ系ブログなので、オープン戦の成績やいつもの投球分布図も見てみましょう。

 

【OP戦成績】

投球回 :15.1

被安打 :8

本塁打:2

与四球 :1

奪三振 :23

自責点 :4

防御率 :2.35

K/BB  :23.0

WHIP   :0.59

 

【投球分布図】

 

最大の武器は160km/hに迫るストレートで、それも数値だけの見掛け倒しではなく空振りをバンバン奪えるキレを備えていることもグラフから見てとれます。この自慢の速球を軸として、落差のあるフォークと緩急自在のカーブを190cmもの長身から投げ下ろす姿はかつての鷹の絶対的エース・斉藤和巳氏を彷彿とさせますね。

 

さらにこの手の恵体速球派にありがちなノーコンということも全くなく、15イニングで与四球わずか1と制球に一切不安がないのも強みですね。見ての通りビタビタな制球力というタイプでこそありませんが、この球威・キレがあれば下手にコースを突くよりも思い切り腕を振ってゾーンに投げこむだけで力で押し切れると思います。

 

強いて不安点を挙げるのであれば、フライアウトが多く、被本塁打2という点でしょうか。これだけ圧倒的なスタッツながら防御率が2点台というのは、恐らく速球の質やフォーク・カーブという持ち球ゆえ長打を浴びやすいのが原因と推察されます。ボールのレベルが高くとも、球種が少ないとヤマを張られやすいですしね。とはいえ昨季のファームでの被本塁打はわずか1なので杞憂かもしれませんが、指標のわりに防御率が良くない(3.31)のもそのあたりが多少影響していそうです。

 

いやはや、不安視されているポスト山本由伸がこんなに早く出てくるなんて羨ましい限りですね。オリックスの投手育成力は感服するばかりです。とはいえまだ二十歳なので末恐ろしい反面現時点での過度な期待は禁物ですが、シーズン通してパフォーマンスを維持できる体力があれば新人王の有力候補ですね。

 

ソフトバンク:大津 亮介

 

二人目は大津亮介投手です。

youtu.be

 

【OP戦成績】

投球回 :4.2

被安打 :2

本塁打:0

与四球 :0

奪三振 :2

自責点 :0

防御率 :0

K/BB  :- ※分母が0のため

WHIP   :0.43

 

【投球分布図】

昨年のドラフト会議にて2位の高評価で指名された大津投手は、オリ山下投手とは対照的に7色の変化球を自在に操る技巧派右腕です。

 

フォーシームの割合は4割程度と抑えめで、代わりにダルさんが使い始めて知名度を上げたワンシーム(グラフ内では☆特殊球・赤枠)やスラ・カッターをメインウェポンとして変化球を駆使するスタイル。大きく曲げたり落としたりという派手なスタイルではなく、変化を細かく調整して打たせて取るタイプのようですね。そうやって上手く芯を外させたゴロアウトが多いのもグラフから見てとれます。

 

さらに、そういった細かくニュアンスの異なるボールを打者の左右を問わず大怪我しないアウトローに集めている(青枠)のも、安定した成績を残すうえで重要なスキルです。3/15のファーム阪神戦で3イニングを投げて打ち込まれたこともありリリーフでの起用が濃厚ですが、阪神戦の3イニングを含めても7.2イニングで奪三振はわずか2と三振を奪えるタイプではないですし、一方で引き出しは多そうな投手なので先発の方がフィットしそうな気がします。

 

補強組の先発候補である有原・ガンケル両投手が出遅れ気味なので、早いうちにチャンスを与えてあげてほしいですね。

 

西武:佐藤 隼輔

 

3人目はいよいよ我らがライオンズの番です。

 

正直推したい選手はたくさんいるのですが、ここだけ贔屓してダラダラ書くわけにもいかないので、あえてこの投手に絞ります。2021年ドラフト2位、佐藤隼輔投手です。

youtu.be

 

【OP戦成績】

投球回 :5

被安打 :3

本塁打:0

与四球 :2

奪三振 :5

自責点 :1

防御率 :1.80

K/BB  :2.5

WHIP   :1.0

 

【投球分布図】

昨季終盤あたりからのリリーフ起用が奏功したのか、元々定評のあったストレートにさらに磨きがかかり、常時150km/h程度と球速アップに加えてバンバン空振りを奪える絶対的なボールへと進化(赤枠)。フォーム的な観点だと、昨季と比べてほんのわずかですがリリースまでの間が取れて右足の着地を我慢できているように見えるので、そこが球速アップにつながったのかもしれません。

 

OP戦ではイニングと同数の5三振を奪い、うち4つをストレートで決めるなど最初から最後まで押し切れるだけの威力が備わりました。一方で変化球はほとんど投げていないので未知数ですが、映像を見た限りでは曲がりの大きなスライダーも十分実戦レベルに見えますし、分布図でもそこまで抜けることなく制球できている(青枠)のがわかりますね。

 

右打者には被安打0で、高めのストレートと膝元のスライダーのシンプルなコンビネーションだけでも十分通用するでしょう。一方で、昨季被打率3割と苦戦した左打者には3安打を許してしまっており、うち2安打は浮いた変化球なので、変化球の制球でもうワンランクレベルアップしたいところです。スライダーかチェンジアップ、いずれか1球種でも決め球クラスまで仕上げることができれば、先発転向した平良投手に代わる勝ちパターン入りも狙えるはず。

 

昨季はチーム防御率1位とかなり整備されてきた西武投手陣ですが、左のリリーフではまだ絶対的な存在がいませんので、そこに割って入れればさらに盤石となります。同期の隅田投手とともに飛躍の1年にしてほしいですね。

 

楽天:黒川 史陽

 

ここで唯一の野手のご紹介になります。

楽天期待の高卒4年目、黒川史陽選手です。

youtu.be

【OP戦成績】

34打数 11安打 2打点 3四球 0本塁打 4三振 0盗塁

打率:.324 長打率:.382 出塁率:.378 OPS:.760

 

【打撃内容】

黒川選手は、2021年4月17日の楽天vs日本ハム@東京ドームをたまたま観ていたときに目に留まった選手で、日本ハムの右のエースである上沢投手を相手に、チャンスで10球粘った末にセンター前にタイムリーを放った打席が強烈に印象に残っています。その試合では、結局上沢投手から唯一の打点を挙げたのが彼であり、それが高卒2年目というのだから舌を巻きました。

 

とにかくセンターから逆方向に打つのが上手く、昨季の1軍公式戦における安打の半数がレフト方向で、このOP戦でも同様の傾向が見てとれます。それも、対右投手において安打の半数以上が内角であり、逆方向に打っている(赤枠)のだから興味深いですね。外角を無理やり引っ張る打者は枚挙に暇がありませんが、逆は珍しい特徴で、引き付けて打てる高い技術とセンスを持っているのでしょう。

 

昨季は主にファームで試合に出ていましたが、打率.262に6本塁打とまずまずで、このOP戦でも上記の通り十分な成果を残せており、起用する価値は十分ある選手です。ただ、本職である二塁は浅村選手という大きな壁が立ちはだかり、サブポジになりうる一三塁も含め内野は激戦区です。おまけに左打者も飽和気味なので出番は限られると思いますが、今年こそチャンスを掴んでほしいですね。

 

ロッテ:小沼 健太

 

続いては、昨季支配下登録を勝ち取ったロッテの小沼投手です。

youtu.be

【OP戦成績】

投球回 :4

被安打 :4

本塁打:1

与四球 :1

奪三振 :2

自責点 :2

防御率 :4.50

K/BB  :2.0

WHIP   :1.25

 

【投球分布図】

OP戦の成績だけを見ると全くパッとしないですし、昨季は1軍・ファームともに防御率6点オーバーと正直ボロボロです。それこそ、注目株の中森投手(昨季ファーム防御率0.90、OP戦4回無失点)の足元にも及びません。

 

それでもあえて名前を挙げたのは、決め球であるフォークに大きな可能性を感じたからです。動画の0:35あたりのフォークの落差は千賀投手の「お化けフォーク」にも引けをとりません。

 

さらに投球分布図を見てみると、リリーフゆえにサンプルこそ少ないものの真ん中低めのボールゾーンにキレイに落として空振りを量産してる(赤枠)んですよね。落差があるので、打者からすれば「甘いど真ん中きた!もらった!」と思ったら空振りしているわけです。これがコンスタントに投げられるのであれば、大きな強みになります。

 

一方で、やや体の開きが早くストレートがシュート回転していて150km/hという数字ほどの威力を感じない(OP戦でも空振りゼロ)ので、決め球のフォークを活かすためにもそこが改善点でしょうか。ただ体重移動は元々悪くないと思いますので、開きを改善できればイメージ的にはかつて広島でクローザーとして活躍した永川勝浩氏のような投手になれるポテンシャルを秘めていると思います。

 

日本ハム:金村 尚真

 

最後は、昨年のドラフト2位で、西武ゆかりの富士大卒のルーキー・金村投手です。

Twitterでドラフト有力候補として真っ先にご紹介した投手で、現時点で新人王の最有力候補だと思っています。残っていたらぜひ指名してほしかったのですが、野手の補強が急務の中で1位を使えない事情は理解しているので、こればかりは仕方ないですね…。

 

youtu.be

 

【OP戦成績】

投球回 :15

被安打 :7

本塁打:1

与四球 :3

奪三振 :14

自責点 :2

防御率 :1.20

K/BB  :4.67

WHIP   :0.67

 

【投球分布図】

成績については、被安打や与四球は少ない一方でイニングとほぼ同等の奪三振を稼ぎ、K/BB、WHIPともに高水準でオリ山下投手に引けを取りません。

 

次に投球分布図ですが、球種の多彩さとどれでも空振りを奪えるキレが目を引きますね。これだけキレがあればコースビタビタである必要性は下がりますから、対左は広くゾーンを使えて的を絞らせない投球ができます。一方で対右では外角に集めて引っかけさせることで、遊ゴロを量産している(赤枠)のも特筆すべき点です。対左だと逆で一、二ゴロも多いですね。

 

先発での起用が予想されますが、先発は球数を減らしてできるだけ長いイニングを投げることが求められますので、狙って遊ゴロをはじめ内野ゴロを打たせることができれば必然的に併殺も増えますから、非常に重要な投球術です。事実、動画のヤクルト戦では6回をわずか68球で片付けており、その実戦力の高さが窺えますね。

 

さらに見逃せないのが、高めのストレートと低めの変化球で三振を取っている(青枠)点です。三振といっても色々あって、高さやコース関係なくキレやスピードで押し込んだものもあれば、甘いところでも緩急をつけることで空振りを誘うものもありますよね。しかし、金村投手の場合は高い制球力によりきっちりと決め球のコースと高さを間違えず、ストレートは高め、変化球は低めの狙ったところに投げて教科書通りの三振を奪っているのがわかりますね。ゴロも三振も狙って奪える、ドラフト上位指名に相応しい恐ろしくクレバーな投手に見えます。

 

それを可能にしているのが、西武ファン的に「僕はやっぱり摂津さん」でおなじみの元ソフトバンクの精密機械・摂津正氏を彷彿とさせる特徴的な小さいテークバックだと思います。昨季大ブレイクして侍JAPANにまで上り詰めた中日・髙橋宏斗投手のように、小さいフォームでも力をしっかり伝えられれば球威は落ちませんし、フォームが小さければ当然再現性が上がり、制球力アップにつながります。

 

おわりに

 

いかがでしたでしょうか。

 

私のメインツールであるTwitterの文字数制限から解放されたせいで、少々長文になってしまいました(笑

 

最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます!

 

言うまでもなく私は埼玉西武ライオンズの優勝が見たいので、他球団の選手にはなるべく大人しくしていてほしいのが本心ではありますが、先日日本の優勝奪還で幕を閉じたWBCにて、普段敵対している様々なチームの主力選手が力を合わせて栄光を掴みとる瞬間を見てしまうと、どこかその成長に楽しみというか、ワクワク感を覚えてしまうんですよね。

 

WBCで大活躍した大谷選手や吉田選手はいずれもパリーグ出身ですし、西武も散々痛い目にあわされてきたのはご存じの通り。でも彼らのような世界に通用する強打者を抑えるべく努力してきたことで、西武投手陣は(暫定ですが)パリーグナンバーワンへと進化を遂げました。

 

月並みですが、パの強さの原点は互いに切磋琢磨できるハイレベルな環境にあると思います。今後もお互いを高め合い、願わくば最後は西武が優勝して、3年後に源田選手や山川選手に続く選手を世界一の戦いに送り出してくれたらと思います。

 

今回は以上です。

次回は、元々こちらより先にアップする予定だった広角打法考察の後編を予定しておりますので、ぜひそちらもチェックしていただけると嬉しいです。

 

それではまた!

広角打法って何がいいの?(前編)

こんにちは、LDLです。

 

前回の記事で「今年は毎月1回は更新する!」と宣言した通り、ギリですが2月の更新になります。もし最後まで完走できたら褒めてください。

 

さて、今回のテーマは「広角打法」です。広角に打てる打者のことを「スプレーヒッター」と呼んだりもしますね。我らがライオンズ期待のドラ1ルーキーである蛭間さんも、渡辺GMから「広角に打てる」と評されています。

 

こんなマニアックなブログに訪れるくらい野球通の読者の皆様は、単語くらいは聞いたことがあるでしょうし、何となくイメージも出来上がってると思います。では、野球観戦初心者の友人から「広角打法って何?」と問われたらなんと答えるでしょうか?

 

①逆方向に強い打球を打てる打者

②コースに逆らわず打てる打者

③あらゆる方向に万遍なく打てる打者

 

だいたいこんなところでしょうか。微妙な違いかもしれませんが、結構人によって意見が分かれると思います。「広角打法」でググっても、ページによって細かいニュアンスがバラバラなんですよね。みなさんおなじみの○ワプロでは①だったような気がします。

 

そこで本稿では、当ブログなりの根拠に基づいて広角打法の解釈を整理したのち、NPBにおける広角打法のできる打者の定量的な評価を試みます。目次は下記の通りです。

 

 

それではいってみましょう。

 

そもそも広角打法とは何ぞや

 

まずはじめに、当ブログなりに広角打法を定義します。

 

「広角に打てる」という選手評は、基本的に好意的なコメントと考えて差し支えないのですが、そもそも広角に打てると何が嬉しいのでしょうか?

 

直感的にわかりやすいメリットとしては、シフトケースバッティングの2点が挙げられます。

 

まずシフトについては、特定の方向しか打てないとなると、相手はそこに野手を寄せるシフトを敷けば打球が抜ける確率が下がるので、守りやすくなりますよね。もちろんそこを逆手にとって野手が手薄なところに打ち返せればよいのですが、そんな技術のある打者はそもそもそういったシフトを敷かれることはありません。

 

次にケースバッティングについては、これもシフトに包含される部分もありますが、いわゆる「右打ち」ができるかどうかというやつです。野球はフィールドの形状こそ左右対象ですが、走者は反時計回りに塁間を駆けるので、性質としては非対称なスポーツです。

 

ランナーが一塁にいて二塁が空いているケース等においては、一塁ランナーのリードを抑止する目的で一塁手がベース付近につかざるをえず、一二塁間、すなわち右方向のヒットゾーンが広くなります。そちらに打てれば当然ヒットになる確率は高いですし、ヒットにならずともランナーを進めたり、併殺のリスクを低減できます。さらに、右翼から三塁までは距離があり送球に時間がかかるので、うまくいけば単打で一三塁のチャンスを作ることもできますね。ゆえに、「必要に応じて右に打てること」は一般的に良いこととされています。

 

冒頭の例示の①「逆方向に強い打球が打てる」ことが好ましいのは特に説明も不要でしょう。長打を打てる方向が多いに越したことはありませんからね。ただ、打球の強さに関するデータ(Hard%等)については現状無料で閲覧する術がなく公開できないので、今回は議論しません。

 

では右打ちができる=広角打法なのか?と問われればもちろんNOです。前述の通り打球方向が右に偏る打者であれば、当然シフトも右寄りになるのでヒットの確率は下がります。重要なのは、状況に応じてヒットになりやすい方向に自在に打ち返すの能力だと思います。

 

では、「ヒットになりやすい方向に打つ」とは具体的にどうすること何なのでしょうか?次章ではそれを検証していきます。

 

ヒットになりやすい打撃とは

 

ここで冒頭で取り上げた、広角打法の定義の候補をおさらいしてみましょう。(他にもあるぞ!という方はぜひコメントください)

 

①逆方向に強い打球を打てる打者

②コースに逆らわず打てる打者

③あらゆる方向に万遍なく打てる打者

 

①については、前章で議論の対象外としたので、今回は置いておきます。データの開放が進み、Hard%が自由に閲覧できるようになったらぜひ検証してみたいところです。

 

よって、前編では②についてデータに基づき検証してみます。(③は後編にて)

 

コースに逆らわない打撃というのは、一般的にセンター返しを基本として、内角は引っ張る(右打者なら左に、左打者なら右に打つこと)、外角は流す(引っ張るの逆)打撃のことを指します。

 

この打法は一般的に好意的な使われ方をしますが、果たして本当に結果に結びついているのでしょうか?まずはこれを、2022年のNPBのレギュラーシーズンを対象として検証してみます。

 

検証の手順はシンプルで、「全打者を対象に、ストライクゾーンを左・中・右に3分割して打球方向(左・中・右)ごとの安打の割合を調べる」だけです。結果は下表の通りです。

 

ここから読み取れるのは以下の3点です。

 

1.真ん中のボールはヒットになりやすい

2.コースに逆らわない打撃はヒットになりやすく、逆らうとヒットになりにくい

3.基本とされるセンター返しは意外に打率が低い

 

2は見事に定説通りで、3は定説に反する結果となりました。

 

2については、野球経験者でなくとも、体に近い内角の球を逆方向に打ったりするのは窮屈になりそうだな、というのは想像に難しくないと思います。引っ張る方が楽そうですよね。

 

3についても、私は「基本はセンター返し」というのは「何が何でもセンターに打ち返せ」というわけではなく、バッティングに臨む際の心構えの話をしていると理解しているので、このデータは定説を裏付けたといってもよいかなと考えております。

 

このことから、「コースに逆らわない打撃」はどうやら有効そうですね。「コースに逆らわない打撃」さえできていれば概ね打率は上がりそうな印象ですが、さて実際のところどうなのか、検証していきましょう。検証する仮説はこちら。

 

仮説:コースに逆らわない打撃をすれば、打率は上がる

 

やり方は本ブログの最初のテーマである「奪三振力」と同様の発想で、各安打に投球のコースと打球方向に応じた重み付けをして差別化してやります。今回は、簡単のためさきほどの表の中で、真ん中のコースをセンター返しした場合の0.082を基準として、全ての数値を割ってやります。

 

 

こうすることで、「コースに逆らわない打撃」による安打の価値を上げ、「逆らった打撃」の価値を下げてみました。全ての安打に対してこの重み付けをして、安打数で割ってあげることで評価指標とします。この指標では、1を基準として、コースに逆らわない打撃ができている野手は1以上の数値になり、コースに逆らっている野手は1以下になります。

 

下表の例では、安打を4本放っていて、逆らわない打撃を2回(①③)、逆らう打撃を1回(④)した打者の指標になります。逆らわない打撃の方が1回多いですが、1.015という指標にも表れているのがわかりますね。

 

では本番です。NPBの2022年シーズンに規定打席に到達した打者を対象として、このデータ処理をやってみます。「指標」だとわかりにくいので、以下ではスプレーヒッター指数(SH指数、仮称)と呼称します。その結果がこちら(SH指数降順)

 

 

これだけだと仮説を検証できないので、縦軸をSH指数、横軸を打率としてグラフ化してやります。仮説が正しければ、ある程度線形(≒比例)になるはずですが、果たして結果は…?

 

\デデン/


はい、驚くほど相関がないですね。

 

この計算方法の欠点として、そもそも「逆らう安打」は安打になりにくいので、安打だけを対象とすると数値は全体的に1より高めになるのは想定していましたが、もう少し相関が出そうなものかと思ってました。甘かったですね。そう簡単に上手くいかないのが研究というものです。

 

悪あがきで長打率も出してみます。

こちらも相関は見られず。

 

おわりに

 

いかがでしたでしょうか。

 

今回の検証では思うような結果は出ませんでしたが、凡退時の打球方向も含めたり、「進塁打のために左のコースでも無理にでも右打ちしなければならないケース」を除外したりするなど、まだまだ工夫する余地はありそうです。

 

次回の後編では、3つめの定義候補「あらゆる方向に万遍なく打てる」について、打率との相関等を検証していきたいと思います。お楽しみに。