Lions Data Lab

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広角打法って何がいいの?(前編)

こんにちは、LDLです。

 

前回の記事で「今年は毎月1回は更新する!」と宣言した通り、ギリですが2月の更新になります。もし最後まで完走できたら褒めてください。

 

さて、今回のテーマは「広角打法」です。広角に打てる打者のことを「スプレーヒッター」と呼んだりもしますね。我らがライオンズ期待のドラ1ルーキーである蛭間さんも、渡辺GMから「広角に打てる」と評されています。

 

こんなマニアックなブログに訪れるくらい野球通の読者の皆様は、単語くらいは聞いたことがあるでしょうし、何となくイメージも出来上がってると思います。では、野球観戦初心者の友人から「広角打法って何?」と問われたらなんと答えるでしょうか?

 

①逆方向に強い打球を打てる打者

②コースに逆らわず打てる打者

③あらゆる方向に万遍なく打てる打者

 

だいたいこんなところでしょうか。微妙な違いかもしれませんが、結構人によって意見が分かれると思います。「広角打法」でググっても、ページによって細かいニュアンスがバラバラなんですよね。みなさんおなじみの○ワプロでは①だったような気がします。

 

そこで本稿では、当ブログなりの根拠に基づいて広角打法の解釈を整理したのち、NPBにおける広角打法のできる打者の定量的な評価を試みます。目次は下記の通りです。

 

 

それではいってみましょう。

 

そもそも広角打法とは何ぞや

 

まずはじめに、当ブログなりに広角打法を定義します。

 

「広角に打てる」という選手評は、基本的に好意的なコメントと考えて差し支えないのですが、そもそも広角に打てると何が嬉しいのでしょうか?

 

直感的にわかりやすいメリットとしては、シフトケースバッティングの2点が挙げられます。

 

まずシフトについては、特定の方向しか打てないとなると、相手はそこに野手を寄せるシフトを敷けば打球が抜ける確率が下がるので、守りやすくなりますよね。もちろんそこを逆手にとって野手が手薄なところに打ち返せればよいのですが、そんな技術のある打者はそもそもそういったシフトを敷かれることはありません。

 

次にケースバッティングについては、これもシフトに包含される部分もありますが、いわゆる「右打ち」ができるかどうかというやつです。野球はフィールドの形状こそ左右対象ですが、走者は反時計回りに塁間を駆けるので、性質としては非対称なスポーツです。

 

ランナーが一塁にいて二塁が空いているケース等においては、一塁ランナーのリードを抑止する目的で一塁手がベース付近につかざるをえず、一二塁間、すなわち右方向のヒットゾーンが広くなります。そちらに打てれば当然ヒットになる確率は高いですし、ヒットにならずともランナーを進めたり、併殺のリスクを低減できます。さらに、右翼から三塁までは距離があり送球に時間がかかるので、うまくいけば単打で一三塁のチャンスを作ることもできますね。ゆえに、「必要に応じて右に打てること」は一般的に良いこととされています。

 

冒頭の例示の①「逆方向に強い打球が打てる」ことが好ましいのは特に説明も不要でしょう。長打を打てる方向が多いに越したことはありませんからね。ただ、打球の強さに関するデータ(Hard%等)については現状無料で閲覧する術がなく公開できないので、今回は議論しません。

 

では右打ちができる=広角打法なのか?と問われればもちろんNOです。前述の通り打球方向が右に偏る打者であれば、当然シフトも右寄りになるのでヒットの確率は下がります。重要なのは、状況に応じてヒットになりやすい方向に自在に打ち返すの能力だと思います。

 

では、「ヒットになりやすい方向に打つ」とは具体的にどうすること何なのでしょうか?次章ではそれを検証していきます。

 

ヒットになりやすい打撃とは

 

ここで冒頭で取り上げた、広角打法の定義の候補をおさらいしてみましょう。(他にもあるぞ!という方はぜひコメントください)

 

①逆方向に強い打球を打てる打者

②コースに逆らわず打てる打者

③あらゆる方向に万遍なく打てる打者

 

①については、前章で議論の対象外としたので、今回は置いておきます。データの開放が進み、Hard%が自由に閲覧できるようになったらぜひ検証してみたいところです。

 

よって、前編では②についてデータに基づき検証してみます。(③は後編にて)

 

コースに逆らわない打撃というのは、一般的にセンター返しを基本として、内角は引っ張る(右打者なら左に、左打者なら右に打つこと)、外角は流す(引っ張るの逆)打撃のことを指します。

 

この打法は一般的に好意的な使われ方をしますが、果たして本当に結果に結びついているのでしょうか?まずはこれを、2022年のNPBのレギュラーシーズンを対象として検証してみます。

 

検証の手順はシンプルで、「全打者を対象に、ストライクゾーンを左・中・右に3分割して打球方向(左・中・右)ごとの安打の割合を調べる」だけです。結果は下表の通りです。

 

ここから読み取れるのは以下の3点です。

 

1.真ん中のボールはヒットになりやすい

2.コースに逆らわない打撃はヒットになりやすく、逆らうとヒットになりにくい

3.基本とされるセンター返しは意外に打率が低い

 

2は見事に定説通りで、3は定説に反する結果となりました。

 

2については、野球経験者でなくとも、体に近い内角の球を逆方向に打ったりするのは窮屈になりそうだな、というのは想像に難しくないと思います。引っ張る方が楽そうですよね。

 

3についても、私は「基本はセンター返し」というのは「何が何でもセンターに打ち返せ」というわけではなく、バッティングに臨む際の心構えの話をしていると理解しているので、このデータは定説を裏付けたといってもよいかなと考えております。

 

このことから、「コースに逆らわない打撃」はどうやら有効そうですね。「コースに逆らわない打撃」さえできていれば概ね打率は上がりそうな印象ですが、さて実際のところどうなのか、検証していきましょう。検証する仮説はこちら。

 

仮説:コースに逆らわない打撃をすれば、打率は上がる

 

やり方は本ブログの最初のテーマである「奪三振力」と同様の発想で、各安打に投球のコースと打球方向に応じた重み付けをして差別化してやります。今回は、簡単のためさきほどの表の中で、真ん中のコースをセンター返しした場合の0.082を基準として、全ての数値を割ってやります。

 

 

こうすることで、「コースに逆らわない打撃」による安打の価値を上げ、「逆らった打撃」の価値を下げてみました。全ての安打に対してこの重み付けをして、安打数で割ってあげることで評価指標とします。この指標では、1を基準として、コースに逆らわない打撃ができている野手は1以上の数値になり、コースに逆らっている野手は1以下になります。

 

下表の例では、安打を4本放っていて、逆らわない打撃を2回(①③)、逆らう打撃を1回(④)した打者の指標になります。逆らわない打撃の方が1回多いですが、1.015という指標にも表れているのがわかりますね。

 

では本番です。NPBの2022年シーズンに規定打席に到達した打者を対象として、このデータ処理をやってみます。「指標」だとわかりにくいので、以下ではスプレーヒッター指数(SH指数、仮称)と呼称します。その結果がこちら(SH指数降順)

 

 

これだけだと仮説を検証できないので、縦軸をSH指数、横軸を打率としてグラフ化してやります。仮説が正しければ、ある程度線形(≒比例)になるはずですが、果たして結果は…?

 

\デデン/


はい、驚くほど相関がないですね。

 

この計算方法の欠点として、そもそも「逆らう安打」は安打になりにくいので、安打だけを対象とすると数値は全体的に1より高めになるのは想定していましたが、もう少し相関が出そうなものかと思ってました。甘かったですね。そう簡単に上手くいかないのが研究というものです。

 

悪あがきで長打率も出してみます。

こちらも相関は見られず。

 

おわりに

 

いかがでしたでしょうか。

 

今回の検証では思うような結果は出ませんでしたが、凡退時の打球方向も含めたり、「進塁打のために左のコースでも無理にでも右打ちしなければならないケース」を除外したりするなど、まだまだ工夫する余地はありそうです。

 

次回の後編では、3つめの定義候補「あらゆる方向に万遍なく打てる」について、打率との相関等を検証していきたいと思います。お楽しみに。