Lions Data Lab

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捕手のリード力の数値化に関する考察(前編)

 こんにちは、DataLab管理人です。名前はまだありません。

 

 改めてまして、前回の記事「奪三振率だけでは測れない?本当の奪三振力」を読んで下さった方々、さらにRT等で反応してくださった方々、ありがとうございました。

 

 忘れられてしまわないうちに、次の記事を投稿したいと思います。

 

 前回は初稿ということもあり、張り切りすぎて長文になった上に調子に乗って数式まで使い始めてしまったがゆえに、途中で嫌気がさしてドロップアウトしてしまった方もいらっしゃったと思いますので、今回は前後編に分けて、前編は読み物中心で、後編はデータ中心になる見込みです。

 

 なお、あらかじめことわっておきますが、前置きは長いです。サクッと終わらせるつもりが、書いているうちに長くなってしまいました。プロの物書きの文章ではないので、読んでいて飽きてしまう方もいらっしゃるであろうことは容易に想像がつきます。そういう方は、戻るを押す前にせっかくなので末尾のデータだけでも見て行っていただければ、わざわざアクセスした意義が生まれるかと思います。

 

 もしかしたら前回のゴリゴリな分析記事を気に入ってくださった方もいらっしゃるかも知れませんが、まだ試行錯誤の段階ですので、どうか広い心でお付き合いくださいませ。

 

 さて、そろそろ本題に入ります。

 

 

リードの上手い捕手は誰?

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  まずはじめに想像してみていただきたいのですが、みなさんは「リードの上手い捕手」と問われたとき、誰を想像するでしょうか?

 

 現役はもちろん、ノムさんや古田といったレジェンドと呼ばれる捕手でも構いません。西武ファンなら、伊東勤も忘れてはいけませんね。とりあえず誰でも良いので、一人想像してみてください。

 

 そして次の質問です。

 

 なぜその捕手のリードが上手いと思ったのでしょうか?

 

 「試合を観ていて、思わず唸ってしまうような予想もしない配球を見せてくれるから」

 「勝率が良いから」

 「解説者やOBからリードを称賛されているから」

 「有名だから」

 「好きだから」

 

 いろいろあると思いますし、どれが正解ということもないと思います。一般的に「勝てる捕手こそが良い捕手」なんて言われたりしますが、打者を抑えられるかどうかは捕手のリードだけではなく、バッテリーを組んでいる投手の能力やチームの守備力にも大きく依存しますから、私はこれは的確な表現ではないと考えています。

 

 どれだけ相手のデータを知り尽くし、経験豊富で強肩強打の捕手がいたとしても、草野球のチームを率いてプロに勝つのはほぼ不可能だと思いますが、だからといってその捕手が「良い捕手ではない」ということにはなりません。あれはあくまで、実力の拮抗したプロ同士という前提があるからこそ成り立つ表現です。

 

 これは、いわゆる順問題*1として100%正解となるリードを導出することは困難であるがゆえの表現だと考えています。

 

 仮にテレパシーで打者の思考を読み取れる捕手がいるとして、アウトローの逃げていくスライダーを待っていることが分かっている場合に、捕手はインハイにストレートを要求することはできます。しかし、できるのはそこまで。

 

 当然のことながら要求通りのボールが来る保証はありませんし、すっぽ抜けて当ててしまうかもしれません。要求通りのボールが来たとしても、打者は咄嗟に体が反応してヒットにしてしまうことだってあります。正解になりそうなことでも、簡単に不正解にされてしまうのです。逆も然り。

 

 裏をかこうとしてヒットを打たれて「ダメなリード」の烙印を押されたとしても、もしセオリー通りのリードを打者が読んでいたとしたら、HRにされていたかもしれませんから、相対的には正解だったという無茶な見方すらできてしまいます。そして結局、何が本当の正解だったのかは、永遠に謎のままです。

 

 つまり、投手の能力も含め、捕手ではコントロールできない不確定要素が多すぎるがため、捕手はあらかじめ確定している与条件のみから、数式を解くように正解を求めるのは不可能なわけです。導出できるのはあくまで、経験や洞察を頼りにした最適と”思われる”解だけです。

 

そもそも上手いリードってなんだろう? 

 早くも、自分で書いていてよくわからなくなってきたので、いったん頭の整理をすべく、より原始的な視点に立ち返ってみましょう。そのために、まず「上手いリード」とは何なのかを定義してあげる必要があります。

 

 野球は点取りゲームであり、基本的により多くの得点と、より少ない失点を目指すものです。そして失点を減らすには、ハイレベルな守備が必要です。捕手のリードも、その一つの要素です。

 

 しかし「ハイレベルなリードをするためには?」という掘り下げをしてしまうと早くも行き詰ってしまうので、視点を変えてみます。

 

 失点を減らすということは、相手の得点を邪魔するということです。相手は得点したいがために、あれやこれやと策を弄してきます。ゆえに相手打者は、その策を実現するために何らかのヴィジョンをもって打席に立っているはずです。ランナーがいなければヒットや粘っての四球、ランナーがいればバントやコースを絞っての右打ち、二死ランナーなしなら長打狙い、といった具合です。少しでも得点の確率が高くなりそうなことをしようとしてきます。

 

 よって、相対するバッテリーが”本質的に”目指すべきは、ヒットを防ぐことでもランナーを出さないことでもなく、相手が思い描くヴィジョンの実現を阻害すること、すなわち「狙いを外す」ことになります。ヒットを防ぐ、つまり凡打に打ち取るというのは、あくまでその結果の一つです。全盛期の藤川球児のストレートのような、狙っても打てないようなボールでもあれば話は別ですが、そんな投手はごく一握りなので、とりあえずは例外として扱いたいと思います。

 

 前述の通り、狙いを外したところで必ずしも好結果に結びつくとは限りませんが、少なくとも確率を下げることはできるはずです。よって、ここはひとまず「上手いリード」を「相手の狙いを外すリード」として一段階具体化して定義してみましょう。

 

 しかし、仮にこの定義が正しかったとしても、是非を論ずる数値に落とし込むにはまだ課題があります。「実際に打者の狙いを外したかどうか」が外からではわからないためです。打席ごとにつぶさに捕手と打者にインタビューして、その答え合わせでもしない限り、狙いを外したかどうかを客観的に評価する術はありません。

 

 考えてみれば、「打者の狙い」というのもひどく曖昧なものです。もし逐一答え合わせをしたところで、打者が「インコースの直球を狙っていました」とでも答えてくれればよいのですが、「追い込まれていたので、直球待ちの変化球対応を心掛けていました」と答えた場合、変化球要求が正解だと容易に断定することもできません。

 

 ゆえに、結局「リードの良し悪しは結果論」と片付けられてしまうのだと思います。「勝てる捕手が良い捕手」という通説は積極的な表現ではなく、順問題的にリードの良し悪しを評価する術もなければ、打者の狙いを外したかどうか検証する術もないがゆえの「そう評さざるを得ない」という消極的な表現だと思っています。

 

 でもやっぱり、熱心なプロ野球ファンであるほど、リードの是非についてあーだこーだと口を出したくなってしまいますよね?かくいう私も同じで、「自分こそが絶対に正しいんだ!」という思い込みさえなければ、ファンの間で議論をして盛り上がるのは大いに結構だと思います。

 

 さて、議論が起きそうな場面といえば、たとえばこんな場面を想像してみてください。

 

 本当にリードは結果論なのか

 福岡に乗り込んでのビジターゲームで、場面は1点リードの9回裏。

 

 マウンドには絶対的守護神・増田が上がっており、受けるキャッチャーは岡田。

 

 下位打線からあっさり二死を奪ったものの、ストレートを連打され、四球も絡んで二死満塁。

 

 一打サヨナラの大ピンチで、迎えるは球界最高峰のスラッガー・柳田。

 

 それでも臆することなく自慢のストレート2球で追い込み、0-2で迎えた3球目。

 

 岡田はゾーンのアウトローに構え、それに応えミットめがけて渾身のストレートを投げ込んだ増田だったが、柳田は見逃さずに踏み込んでバットを振りぬき、引っ張った鋭い打球が右中間に飛んでいく。

 

 サヨナラを確信し、歓声に沸くライトスタンド。

 

 しかし、絶妙なポジショニングからそこに猛然とチャージしたライト・木村の見事なダイビングキャッチで窮地を救い、辛くも西武の勝利でゲームセット。めでたしめでたし、閉店ガラガラ。

 

 

 さて、あくまで作り話なので現実性はさておき、みなさんはこのリードをどう評価するでしょうか?

 

 「抑えたのはたまたまで、ボール球も使えるのに柳田に3球連続ストレートで勝負するなんてありえない。当たりも良かったし、抑えたのはたまたま。」

「いやいや、柳田が『3球勝負はありえない。増田は押し出しするような投手ではないし、何球か見せてくる』と考えていると踏んで、意表を突いたのかもしれない。ありえないと一蹴するようなリードではない」

「決め球はストレートなのでそれで勝負するのはいいけど、1、2球は見せ球を挟むべき」

「リードなんて結果が全て。スライダーやフォークを打たれない保証はどこにもない。押し出しのリスクもあるのだから、必ずしも見せ球は必要ない。あれは最高のリードだった。」

「経験のある岡田の判断なのだから、良いリードに決まってる。」

 

 考えられるのは、こんなところですかね。まぁ、勝てば官軍、実際に起きてもそこまで火種になることもないでしょうけど、これが抜けていればそれはもうネットのコアなファンは盛り上がることでしょう。

 

 もし私がこの場面を目の当たりにしたなら、3つ目に近い意見になると思います。「近い」というのは、リードというのは1試合の4打席前後の内容、さらにはシーズンを通した「流れ」を汲むべき*2であり、単一の打席のみで正解を導き出そうとすること自体が無意味だと考えているためです。あくまで定石の一つにすぎません。

 

 もしこの試合後に柳田と岡田にそれぞれインタビューしてみれば、岡田のリードが順問題的に理にかなった良いリードだったのか、ただの結果オーライだったのかは判断できそうですが、なかなかそうはいきませんよね。意見が割れても全く不思議ではありません。

 

 しかし、もしこの打席の結果がライトライナーではなく、ど真ん中の見逃し三振だったならどうでしょうか。

 

見逃し三振の特異性   

  安打にしろ凡退にしろ、ほとんどのケースにおいて、攻撃および守備双方の視点から「狙い通りだったもの」「狙いがはずれたもの」と「成功」「失敗」が混在しています。だからこそ、スコアだけを穴が開くほど眺めたところで、一つ一つの結果が、捕手の狙った「上手いリード」の産物なのか、そうでなかったのかは判断できません。

 

 しかし、見逃し三振という結果は少々趣が異なります。コースギリギリのものであれば、打者がボールと判断しただけというケースもありますが、「なんで手を出さない!?」と声が出てしまうような甘いボールの見逃し三振も散見されます。

 

 こういった見逃し三振こそ、まさに捕手が打者の狙いを外した証に他なりません。追い込まれている打者は、ゾーン内のボールには必ず手を出さないといけないという明確なヴィジョンを持っているはずであり*3、想定している球種であれば当然手を出さなければなりませんが、捕手の選択した球種によってそれをかわしたわけです。

 

 コースは投げてみるまでわかりませんが、投手に首を横に振られでもしない限り、球種は完全に捕手の意思のみでコントロールできるものです。見逃し三振を狙ったかどうかはわからなくても、打者の狙いを外したのはほぼ間違いないと言ってよいでしょう。こういった見逃し三振こそ、投手の能力をはじめとする外乱の少ない、「捕手の好リードを客観的に判断できる結果」だと思います。

 

 だからこそ、さきほどの増田vs柳田の例において、同じアウトでもライトライナーではなく見逃し三振であれば、賛否が割れることはほとんどなく、多くのファンが「意表を突いた度胸のあるリード」と手放しに称賛するのではないか、と考えています。(違ってたらすみません)

 

 ところで、「打者の狙いを外したアウト」と同じくらい「バッテリーの狙い通りのアウト」も評価したくなりますが、これらは似て非なるものだと思います。狙い通りというと、内角球で詰まらせての併殺や、ストライクからボールになる変化球による空振り三振がありますが、それを評価しようとすると、投手がリードに応えられる能力をもっているかどうかという元の議論の問題点に立ち戻ってしまいます。単純に、投手力の高いチームの捕手がそのまま高い評価を得ることになり、チーム防御率と似たような結果に落ち着きそうで面白くないので、いったんこれらはフォーカス外とします。検証は、本稿への反響と、機会があれば追って…。

 

 したがって、今回は投手や守備の能力に影響されにくい、できるだけ純粋な捕手の能力を評価するために、「バッテリーの狙い通り」にいったことではなく、捕手だけの選択により「打者の狙いを外した」こと、すなわち「捕手の見逃し三振奪取の多さ」にフォーカスして書き進めていきたいと思います。

 

見逃し三振を多く奪った捕手は?

 

 前置きがとても長くなりましたが、まとめると下記のような感じです。

 

【ここまでの要約および以後の前提】

①リードの上手さとは、打者の狙いを外すことである。

②捕手が打者の狙いを外したかどうかは、結果だけでは客観的に判断できない。

③甘いコースの見逃し三振は、投手の能力に関係なく捕手の選択球種に依るので、打者の狙いを外した捕手の能力として評価する。

 

 所詮は素人の考察なので、異論反論あるのは重々承知しておりますが、これ以降はこの前提に沿って展開していきますので、ある程度納得できる方のみ読み進めてください。

 

 さて、ここでようやくデータの登場です。2020年レギュラーシーズンのセパ両リーグにおける、捕手の見逃し三振奪取数ランキングは下記の通りです。*4

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 とりあえず純粋な奪取数だけであれば、常勝軍団ホークスの正捕手の座をほぼ確立した甲斐が圧倒的ですね。また、西武ファンの間でよくリードの是非が取りざたされる森友哉ですが、奪取数は甲斐につぐ全体2位となっています。

 

 ただ、今の球界にはかつての古田や阿部、城島のような絶対的な正捕手が不在で、併用が当たり前になりつつあるので、出場試合数等も考慮しないと実体は見えてこないことは容易に想像がつきます。

 

 そのあたりの細かい分析および考察は、後編にて。

 

おわりに

 長くなってしまったので、とりあえず今回はここまでです。最後までお付き合いいただいた方々、ありがとうございました。ほんの少しでも面白いな、と感じてくださった方は、私のモチベ維持のために、いいねでもRTでもレスでもスターでも何でも結構なので、反応していただけると嬉しいです。

 

 後編では、対戦打者数も考慮した奪取率、カウントに応じた重み付け、本来対象とすべき「甘いコース」に限定した奪取率等をお見せしながら、具体的な数値に基づき「打者の狙いを外せる捕手」は誰なのか、考察を進めていきたいと思います。

 

 次回もよろしくお願いいたします。

*1:入力から出力を求める問題のこと。例;坂道の上からボールを転がしたときに、重力や傾斜、坂道の形状等の与条件から経路を予測して到着地点を求めるのが順問題で、到着地点から出発地点を求めるのが逆問題。

*2:だから捕手は大変だって言われるんですよね。単純に相手打者の不得意な球種やコースを覚えてそこを突くだけで抑えられるなら、そこまで難しくはないはずです。

*3:2死のときのセの投手といった、バットに当てることを自ら避けるような特殊な状況は除きます

*4:スポナビ様の掲載情報をもとに構築した管理人のデータベースより、シーズンの半分の60試合以上出場した捕手のみ抜粋。